『柿崎って、ザキってよく呼ばれるよね』

大学の食堂で、みょうじとだべっていたら、こいつは唐突にそんなことを言い出した。
行動が突発的なのはいつものことなので、特に気にせず、まあそうだな、と答える。

『カゲウラくんとか佐鳥くんとか』
「ああ。まああとは真登華とかもそうだな」
「…………」

みょうじは何やら考え込んでいる。なにを言い出すんだろうかと身構えていると、みょうじは画用紙に何かを書きこみはじめた。反対側から覗き込もうとしたらガードされたので、おとなしく書きあがるのを待った。

ほどなくして出来上がった画用紙には、こんな文章が。

『ザキ:相手を即死させる呪文。成功率と使い勝手はいまいち。単体呪文』

「ド○クエか!! お前、また国近んところでゲームしてただろ! レポートは!」
『提出済み(*’ω’*)』

どや顔でそんな画用紙を突き出され、何も言えなくなる。
頭はさほどよくないのに、みょうじはレポートを書くのがやたらと早い。筆談の影響だろうか。うらやましい、と言ったら不謹慎なのかもしれないがうらやましい。俺は文章は苦手だ。

「大体、みんなそんな意味で使ってないだろ。そもそも、ゲーム中でザキ使う奴なんか少数だろうし」
『新しいあだ名考えよう』
「どこからそういう思想になった?」
『ひま』
「暇つぶしで人のあだ名を考えるんじゃない」

しかし、みょうじは俺の言葉などどこ吹く風で、画用紙にさらさらと俺のあだ名候補を書き連ねる。暇なのは俺も同じだし、まあ付き合ってもいいが、みょうじのことだから何を出してくるかがわからない。
ひとまずツッコミを入れる準備だけは整えておこう。

少しして、みょうじがぺらりと、名前が羅列された紙を見せてきた。

『メラゾーマ』
「呪文でそろえるな!」

『ベホマラー』
「だから呪文! 攻撃でもねえし! ラーってつくと人っぽいけど!」

『すき家』
「牛丼は好きだけどあだ名になるほど食ってねえよ!」

『(U^ω^)』
「もう呼ぶ気ねえだろそれ!」

案の定、ろくなあだ名がない。最後に至ってはどう発音すればいいかさえわからない。

ふてくされながら新しいあだ名を考えようとしていたので、画用紙を取り上げることで阻止した。あだ名を考えるより菓子でも食ってろと、文香からもらったアメをみょうじの手に落とす。

ソーダ味のアメを口に含み、つまらなさそうにペンを回すみょうじ。
はっと思いついたように俺の手を取ると、今度は手の甲に何か落書きを始めた。もうおとなしくしてるなら何を書いてもいい。あとで落とせばいいし。

「…………」
「……弟いたらお前みたいな感じだったのかもな」
「?」

みょうじが不思議そうに首をかしげる。こんな弟がいたら手がかかることこの上ないだろうが、一人っ子だから兄弟にあこがれることもあった。

まぁ、弟みたいな同級生、ということで収めておこう。

「……ん? おいみょうじ、ちょっとそのペン見せろ」
「…………」
「お前これ油性じゃねえか! つーかカピバラ描くな! 微妙にうまくて腹立つ!」

あと、画用紙を取り上げるのはもうやめようと思う。

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