最近発売されたアクションゲーム、「デストロイヤー」。
その名の通り、周りにあるすべてのものを破壊してスコアを競うという、単純なもの。
久しぶりにゲームしてみるかと思って、ほこりをかぶったハードを掃除し、さほど期待もしないでやってみた。そうしたら、意外にもシステムが面白くて、まさかの夜更かしまでしてしまった。
……と、いう話を昼食時にしたら、まさかの出水くんが食いついた。
「おれそれ気になってたんだよな。今日やりに行っていい? 明日休みだし」
「なーおれも行きたい! 秀次も行こうぜ」
「陽介、お前今日任務だろう。忘れたのか」
「え゙」
「あと補習あんだろ、槍バカは。前のテスト何点だったんだ?」
「マジかよ……」
マジかよ、は僕のセリフなんだけども。
そんなこんなで、出水くんだけ僕の家に泊りで遊びに来ることになった、んだけど。
「どーしよ……」
来る時間まで、後少し。
風呂場を掃除しながら、これからの展開に頭が痛くなる。
僕は、出水くんのことが好きだ。なんと恋愛対象的な意味で。
もちろん口に出したことはないし出すつもりもそんな勇気もないけど、だからといって男子高校生が、好きな人と一緒にいて何も思わないわけがない。
ただでさえ、出水くんはスキンシップが多いのに。
もういっそ座禅でも組んでしまおうかとアホなことを考えていたら、ちょうどチャイムが鳴ってしまった。あ、オワタ。
玄関を開けると、思った通りの人がいた。
「い、いらっしゃい」
「うーす。お邪魔するぜ」
僕の我慢の一日が始まった。
ゲームをしている間中、出水くんは僕の膝の上に乗ったままだった。
ひたすら脳内で素数を思い浮かべて冷静さを保ったが、ゲームはボロ負けした。
なので足がしびれたからと降りてもらったら、今度は僕を後ろから抱きかかえゲームを続行した。
夕飯を作りだしたら背中に張り付いて、筋肉すげーだの腹がしまってるだのと言って体中をべたべた触り、お風呂に入るように言ったら一緒に入ろうと寝ぼけたことを言う。ここでは円周率が大活躍だった。
「なんなのもう……」
どうにか説得して一人で入ってもらい、僕は部屋に布団を敷いた。
ベッドは出水くんに使ってもらう予定である。
置きっぱなしの本やバッグを片づけて、スペースを作ったところにある布団に寝転がる。
今日だけで何度、いっそ襲おうかと思ったことだろう。ひとえに数学のおかげである。夢にまで出て来そうで怖い。
それにしても、なんで出水くん、あんなにスキンシップ多いんだろうなあ。
はあ、とため息をついて、そのまま目を閉じた。
息苦しさを感じて、目を開ける。ちかちかとした明かりは蛍光灯のもので、そういえばまだお風呂入ってなかったと体を起こすため力をこめる。
だけど、体に巻き付いた腕のせいでそれはかなわない。
自分のものではない白い腕をぎょっとしながら視線でなぞると、僕に抱き付いたまま眠る出水くんがいた。
「……やめてほしいのに」
煽るような言動は。
腕をはがすと、意外にも抵抗なく外れていく。
安心しきった顔で眠る出水くんの顔が、どうにも色っぽくて、思わず額に唇を押し付けた。
「風呂はいろ」
音を立てないように部屋を出た僕は、気づくはずもなかった。
眠っているはずの出水くんが、真っ赤な顔をして額をおさえていることなんて。