平凡な人生だよなあ、と思っていた。
戦闘も援護もできる、そこそこの個性を持っていて、頭の出来もそこそこで、性格もまあ、極端にいいわけじゃないけど極端に悪いわけでもない。と思う。
先生に勧められたからヒーロー科に入学して卒業し、卒業後は運よく滑り込んだヒーロー事務所でサイドキックとして働く。順風満帆な日々。
うん、それこそが俺の求めた日常だったから、別に不満なんかありゃしなかった。
「みょうじ」
「? はい」
仕事を終え、コスチュームから普段着に着替えたところで、なぜか突然呼び止められた。いつもならこのまま挨拶して上がれるのに。
不思議に思いつつも、デスクの前まで行くと、炎ヒゲのしかめ面が言う。
「お前の戦績はなかなかのものだ」
「はぁ、ありがとうございます」
「ところで、俺の息子が雄英に行ったのは知っているな」
「ええ、まあ。おめでとうございます」
うむ、となかなか満足げな顔のヒゲがうなずく。はよ本題に入れと思いながら、続きを待った。
「卒業後は俺の元で覇道を歩ませる。オールマイトを超えるヒーローになるからな」
「はい」
「お前はそのサイドキックになれ」
「は、……い?」
コイツ今なんてった。
肩にかけていた鞄がずるりと落ちていくのを止められなかった。しかしそんな俺の様子などなんのその、ヒゲは続ける。
「生半可なやつに焦凍のサイドキックを務めさせるわけにはいかん。うちの事務所で、唯一合格点なのはみょうじ、お前だ。焦凍が事務所を設立したらそちらへ移籍しろ」
「え、あの」
「話は以上だ。帰ってよし」
「…………お疲れさまです……」
どんだけ過保護なんだよ、と叫びかけたのを、ため息でどうにか散らした。
燃焼系ヒーロー、エンデヴァー。事件解決数は最多だが、万年ナンバー2と言う、いまだに身内が何故おまえがそんな事務所に入れたんだと言うほどの人気ヒーロー。
反抗する気力も根こそぎ吸い取られ、俺はわかりましたともいやですとも言えず、ふらふらしながら事務所を出た。
予想以上に高評価されていたのは普通に嬉しいが、あのエンデヴァーさんの息子。
きっと、いや絶対に気難しいだろ。そんなやつのサイドキックとか。無理だよ。