ルーズリーフを一枚取り出して、一番上に「やってほしいこと」と書いた。
箇条書きで、そこにひとつひとつ、書き記していく。
残った僕の荷物は捨ててほしいこと、気になるものがあれば持って行ってかまわないこと、冷蔵庫の中の料理は早めに食べきるか、傷んでいれば捨ててほしいこと、洗濯はちゃんとポケットに洗剤をいれることなどなど。
意外と生活力のない彼のことを思い浮かべたら、もっともっと書きたいことはあったのだけど、長すぎても読みにくいだろうから短くまとめ、最後に「あとは適宜よろしく」と結んだ。
もう一枚取り出して、今度は「二宮くんへ」と書く。
「…………」
2年弱。それが彼とともに過ごしてきた時間だった。
言いたいことはたくさんあるはずなのに、どれ一つとして、言葉になるものがない。
でも謝罪だけはしなければと、まず初めに「ごめんなさい」と書いた。
おそらく待っているだろう結末を詫びて、言い訳めいたことを並べて、やはり違うと紙を丸めた。
それを机の端に押しやり、再びルーズリーフを取り出す。
同じくあて名を書いて、今度は感謝の言葉から始めてみた。「ありがとう、あなたのおかげで僕は生きる意味を」とまで書いたところで、それが伝えたいんじゃないと再び紙をぐしゃぐしゃにした。
書いては消し、書いては破り、残りの紙が最初の半分を切っても、やはり出来上がらなかった。
「……もーいいや」
諦めて、幾分か投げやりに、何度も書いた名前を書く。
たった3つの単語を並べ、先ほど書いた「やってほしいこと」とまとめてたたんで、机の上に置く。
たくさんのルーズリーフは、ごみ箱に突っ込んだ。
窓から外を覗くと、爆発するのが見えた。あそこで誰が戦っているんだろう。二宮隊は県外に出ているからしばらくは戻らない。
そして僕は、もうここには戻らない。
トリガーを手に、僕は部屋から出た。
「ごめん、ありがとう、さよなら」