階下からゴトンと何かが落ちるような音がした。今家にいるのは俺だけだ。犬飼はスカウトだとかで、今は二宮隊で他の県のはず。

「……泥棒か?」

ここのところ寝不足気味なのと、小説のことばかり考えているせいで、頭が回らない。

泥棒がいたらどこに連絡すればいいんだっけ、ああそうかトリガー発動すればいいのかと、ぼんやりした頭で思考しながら階段を下りる。音が鳴ったのは確か居間だったはずだ。

ぺたぺたと裸足で居間まで向かい、扉を開けた。ゆるく回転していた思考は、そこで完全に停止した。

「クソが、ぶっ殺してやらあ!」

青いジャージ姿で、手のひらを爆発させる目つきの悪い少年。知り合いではない。

「孤立無援の状態で、たかが高校生がいきがってんじゃねえ!」

白い靄のような、霞のような。
とらえどころのないものの中から声が聞こえてくる。ずるりとそこから細長い腕が伸びて、少年を掴もうとした。少年は素早い身ごなしでそれを躱し、反対にその手を掴む。再び爆発が起きて、爆風で書棚がびりびりと揺れた。

泥棒ではないようだが、彼らは何者なのだろうか。俺はどちらの味方をするべきか。
ひとまずトリガーを起動させ、後ろへ飛びのいた少年の首根っこを掴む。

「あ!?」
「とりあえずお前だ」

いったん吊り上げ、周囲をシールドで囲む。
ちょうどシールドの中に少年を閉じ込めたような形にしてから、次に霞に向き合った。

「ざけんなてめー、んなチンケなもんすぐにぶっ壊してやらあ!」
「がんばれ。それでお前は……どうするかな」

霞、靄。とてもじゃないが掴めないし、シールドで覆うのは難しい。どこかに核となる部分はあるのだろうが、見つけるにはどうすればいいか。

「めんどくせぇ……そのガキと一緒にてめーも殺してやる!」

靄からくぐもった声がして、再び腕が伸びる。
それをアステロイドで撃ち返しながら、打開策を考えた。このまま戦闘したら家が壊れる。

ふと、靄の中から腕が出てきたのを思い出した。最近見た、アフトクラトルの近界民たち、その戦い方、三輪の戦法のログ。

トリガーをアステロイドからメテオラに変えて、靄の中に一発打ち込む。

「うがっ!」
「お、当たった」

本体は靄の中にあるようだ。メテオラは靄を貫通せず、中で爆発音を上げている。

もう一発打ち込むと、うめき声が聞こえてからだんだん靄が薄くなる。完全に消えたのを見計らってから銃を下した。

「エネドラよりは楽だったな」
「おいコラ、無視してんじゃねーぞクソ眼鏡!!」
「終わってなかったか」

しかももっと面倒くさそうなのがいた。

シールドを解除しようか考えて、やはりまだ閉じ込めておくことにした。
せめて散らばった本を片付けるまでは。

銃をホルスターに収めてから、あちこちに飛んで行った本をもう一度書棚に収める。その間少年がひたすら騒いでいたが、相手をする気力がなかったので無視した。

爆発音や口汚い罵りをBGMに片づけを終えて、ようやく俺は換装を解いた。シールドが消え、とたんに床に落下した少年が、目をぎらつかせながら手を爆発させる。

「てめぇ……さっきの敵の仲間じゃなさそうだなあ。誘拐なんざ舐めた真似してくれんじゃねえか!」
「ヴィラン? それよりお前その爆発どうやってるんだ?」
「るっせー死ね! 俺を雄英に届けさしてからぶっ殺す!」
「おお」

少年はそう吼えながら俺に突っ込んできた。
どう避けるか、そもそも避けられるかを思案している間に、爆発する手のひらが俺の腕をつかむ。即座に手が爆発し、腕に熱を孕んだ激しい痛みが走った。

「……痛いだろ」
「ったりめーだろうがバカにしてんのか! つかさっきの動きどこ行ったんだよ!」
「換装体だからな。生身じゃあんな動きは……あぁダメだ眠い」
「はあ!?」

痛みで目が覚めるかと思ったが、そんなことはなかった。
痛みより熱より、今は体が睡眠を必要としている。寝ている暇などないのに。

ひとまず少年に腕を放させると、思った以上にひどい火傷になっていた。なんだっけ、とりあえず冷やすんだよな。冷やすもの。冷蔵庫か。

回らない思考回路のまま、ふらふらと冷蔵庫に向かう。
より冷やしたほうがいいかと、冷凍庫を引き出して、そこに腕を突っ込んだ。
そこで、俺の記憶はふつりと途切れた。

少年が何事か怒鳴っているのは聞こえていたが、そんなことも考えられないくらい、とにかく眠かった。



「……ん」

目を覚ますと、天井が見えた。
どこだっけここ、と一瞬考えてから、今までのことを思い出した。手をついて起き上がろうとしたら、腕を縛られている。

仕方ないので腹筋だけで体を起こし、あたりを見回す。さっきの少年はソファの上に陣取り、なぜか本を読んでいた。一昨年くらいに出した本だ。

よほど集中しているのか、俺が起きたのにも気が付いていない。
それならと一旦換装体になり、腕の拘束を引きちぎってから再び換装を解く。ひとまず火傷を冷やすか。

台所に行って、とりあえず腕に水をかける。保冷剤を腕にあて、上からタオルで巻いた。少年はまだ本を読んでいるようだ。何か飲むだろうか。

なんだか大切なことを忘れているような気がしたが、寝起きで頭も働かないのであとで考えよう。とりあえずコーヒーでも飲もう。
二人分のコーヒーを淹れて、再び居間へ向かう。

「コーヒーここ置いとくぞ」
「ん。……あ?」
「それ面白いか?」

少年の向かい側に座ると、彼はぽかんとした顔で俺を見ていた。
俺とコーヒーとを交互に見ておかしな顔をしていたので、飲むように手ですすめた。

少年は読んでいた部分にしおりのひもを挟むと、疑わしそうにしながらもカップに口をつけた。
その様子を見ながら、俺は口を開いた。

「そういえばお前、誰だ?」
「先にそれ聞けよ!!」
「ん? ああ、うん。……あ、そうだ、あの靄は? あとお前の爆破の原理はどうなってるんだ? それとどうやってこの家に入った?」
「一気に聞くな殺すぞ! つかそもそもテメーが誰だよ眼鏡モブが!」
「誰って、ここの住人だけど」
「そういうことを聞いてるんじゃねえ!!」
「お前そんなキレてて疲れないか?」

爆豪くんがひたすら小説家にかまわれて神経をすり減らすだけのお話。

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