ボーダー隊員の戦術理解度を高めたいという要請があり、希望者を集め、講義形式で勉強会を催すことになった。

さすがに東一人ですべての準備を行うには限界があり、荒船や二宮、みょうじなど、講師ができそうな人間にも声をかけて、数日にわたって行う予定だった。

実施日がせまったある日、東は掲示するシラバスを確認して、はたと気が付いた。

「……あ、しまった」

みょうじが担当する科目のシラバスが抜けている。

締め切りまでにはまだ少し余裕があるものの、内容程度は確認しておきたい。
携帯に電話をかけてみたが、留守電につながってしまった。
チームに加入していないみょうじは、作戦室がない。なのでどこに行けば会える、という場所がないのだ。

どうしたものかと歩きながら考えていると、ふと見知った後ろ姿を見つけた。

「太刀川」
「お、東さん。お疲れさんです」
「ああ、お疲れ。今から任務か?」
「ええ、まあ」

わずかに目をそらしたA級1位の姿を見て、レポートか何かをためているなと悟る。

まあいつものことだし、たぶん誰かがサポートするだろう。

「ちょうどよかった。太刀川、みょうじがどこにいるか知らないか?」
みょうじと太刀川は、高校からの付き合いだった。
比較的仲はいいし、どこにいるかくらいは把握しているだろう。そう東は読んだ。

ところが、太刀川はいつもの薄笑いを消して、ふいとそっぽを向いた。

「さあ。どっかでパソコンやってんじゃないですか」
「え?」
「すんません、それじゃあおれはこれで」

それだけ口早に告げると、太刀川はすたすたと立ち去る。
残されたのは、ぽかんとしている東のみだった。



太刀川隊の報告書に誤字脱字が多いのはいつものことなので、ある程度ならば見逃していた。言ってもきりがないからだ。
だが、今回に限っては見逃せないほど多くの誤字脱字があった。ビル街、の街が違っていたり、弧月、が狐になっていたり。
読む分には問題はないが、さすがに注意をしなければと忍田は頭を抱えていた。

任務はすでに終わっているはずだが、電話をかけても出ない。
ランク戦でもしているのだろうか。

ブースまで見に行こうと決め、痛むこめかみをさすりながら基地の廊下を歩いていたら、見覚えのある眼鏡の青年が向こうから歩いてくるのが見えた。
何かに集中しているのか、手元の紙から目を離さないまま歩いてくる。

「みょうじ、前を見ないと危ないぞ」
「うわ」

声をかけると、たいそう驚いたようで体が揺れる。忍田の顔を見て、みょうじはぱちりと瞬きをしてから頭を下げた。

「忍田本部長、お疲れ様です。すみません気づかなくて」
「いや、いいんだ。それよりちょうど良かった、太刀川がどこにいるか知らないか?」

みょうじは確か、太刀川と仲がいい。
大学でよく話すそうだし、休日もなんだかんだと一緒に過ごすことが多いらしい。あいつにしては珍しい友達だなと思ったのを、忍田は今でも覚えている。

だが、みょうじは太刀川の名前を聞くなり、ぴくりと眉を動かした。
わずかな動きだったが、ポーカーフェイスが常である彼の表情にしては目立つ。

忍田が驚いているのをよそに、みょうじは早口で言った。

「さあ。俺は知りません」
「え?」
「お役に立てずすみません。これから東さんのところに行くので、これで」

失礼しますと頭を下げ、みょうじは足早に去っていく。
残されたのは、ぽかんとしている忍田のみだった。

っていう二人の喧嘩話を書こうと思っていた。

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