教えておくれよ敵さん


悶絶するその敵は、俺は見たことはなかったが、異形型の個性らしい。岩のように膨れ上がった頭のほかは、俺たちと同じような肌色だ。
ということはつまり、石頭以外は特に警戒する必要もない。この手の個性は、動きさえ封じてしまえばうまみを発揮できないからだ。

俺が指を動かすと、ヘビは敵の体をさらに締め付けた。

「お、おいなまえ、」

「オールマイトを殺すとか言ってたけど。何か具体的な手があるんだよな?」
「……へっ!」

切島の言葉を無視し、敵に問いかける。

だが、不敵な笑みを浮かべるだけで、そいつは答えない。まだバカにしているようだ。もしくは、よっぽどこの襲撃に自信を持っているか。

だからヘビをさらに大きくして、敵の体だけでなく首にも巻き付ける。
少し強めに締め上げると、余裕の表情が崩れた。

「喋らないならもっと強くする。骨が折れても内臓つぶれても、喋らない限りな」
「なっ……て、てめえヒーロー志望だろうが! 殺す気か!?」
「は? たった今、俺らを殺しにかかってきたやつが、何言ってんの? 授業でもないのに加減するわけないだろ」

殺す気で来たんだから、殺される覚悟くらいあってしかるべきだ。混乱して力加減を間違えたとか言えば、故意にやったとは思われにくいだろう。まぁ俺の場合はどうなるかわからないが、そうなる前にしゃべってくれることを祈る。

さらに手に力をこめると、ヘビはもっときつく首を絞める。

余裕は完全に消え、真っ青な顔で敵は震え始めた。その様子を、爆豪と切島が見つめている。情報がほしいのはこいつらも一緒だからか、止める気配はない。
もしくは、俺が殺すわけがないと思っているか。

三人の視線に押され、敵はようやく口を開いた。

「お、俺らは何も知らされてねえ……。ただ、オールマイトを殺す、ザコをやれと、あいつらに頼まれて、こうして集まったんだ……」
「あいつらって誰?」
「しゅ、主犯だ、お前らを散らした……」
「あのモヤヤローだな」

爆豪が口を挟む。
あれが主犯か。確かに、雰囲気は違ったような気がする。

「他何か知ってる?」
「知らねえ、本当だ!」

慌てたように首を振る敵。その必死さに、切島が頷いた。

「よし、なら、とっととそいつらんとこ行こうぜ! モタモタしてたら、手遅れになるかもしんねえ。こいつはもう知らな、」
「なーおい、嘘つくなよ」

その言葉を無視して、さらに強く首を絞める。
ついでに体も締め上げると、敵は芋虫のようにじたばたと体を跳ねさせた。ひとしきり暴れさせてから、少しだけ拘束を緩める。さっきよりもなおひどく震えるそいつに、また尋ねた。父親から教わった笑顔で。

「あのモヤ以外は?」
「こ、声を、声をかけて、きき、きたのが、黒霧っていう、モヤ、モヤで、リーダーは、手、手が、手を、」
「いーよ、大丈夫だから落ち着いて話して?」

「なまえ! やべーって、それ以上やったら!」
「切島うるさい」

留めようとする切島の腕を振り払い、一蹴する。

もちろん殺す気はない、死ぬ寸前までの苦痛を与えて怖がらせているだけだ。俺はヒーロー志望だから。父親とは違うから、用件が終わったって、殺す気はないんだ。

「喋ったら自分が不利になるから知らないふりしてんだ。もし逃げおおせても、仲間の情報喋ったことが知られりゃ、敵たちの中でも生きていくのが難しくなるからさ」

一般人からもヒーローからも、敵からも疎まれて狙われて生きることになる。ちょっと脅されて漏らしてしまう人間なんか、危なっかしくて仲間になんかできない。喋った内容によっては報復やら口封じやらで殺される可能性もある。
そのことは、俺がよく知っていた。

だけどこいつの今後がどうなろうが知ったことじゃない。主犯の情報と、オールマイトを殺す切り札。それを知れば戦いやすくなるかもしれない。

何より、この敵たちを捕まえるきっかけを俺が作れば、警察にとやかく言われなくて済む。雄英に敵が集合なんて、しかも俺がいるクラスなんて、どう考えたって俺が疑われるに決まっているのだから。

「で、手がなに?」
「て、手のついたやつが、黒霧さんが、し、死柄木、死柄木弔って呼んでて、そ、それから、脳無っていうデカブツ、そ、その3人が主犯だ」
「黒霧、死柄木弔、脳無ね。オッケー、情報どうも」
「た、頼む、俺が喋ったってことは、」
「言わなくっても、お前みたいな小物、誰も相手しないよ」

ヘビを解き、ベルトに再び結びつける。
後ろを振り向くと、少しだけ青ざめた顔の切島と、いぶかし気な顔をした爆豪が待っていた。
マスクをしているから表情はわからないだろうが、いつの間にか笑顔が消えていたのに気づいて、俺はすぐに笑みを浮かべた。

「ごめんごめん、お待たせ。んじゃそいつらのとこ行こうか」
「あ、ああ、おう」
「…………」

爆豪はどこか納得しきれていない顔で俺を見ていたが、すぐに踵を返し、壊れた扉の方へ足を向けた。切島もどこか不安そうにしながら、爆豪の後ろを追う。俺もそれに倣おうとして、足を浮かせかけた。

だが、拘束が解け、少し強気になったらしい敵が、いらないことを言った。

「お、お前のその個性、……『マリオネッター』の、」

すべてを言い切る前に、無防備な顎下を狙って蹴り飛ばす。

糸が切れたように動かなくなった敵が不愉快で仕方ない。
脳震盪でも起こしたか。

「誰それ、知らない」

言い捨てて、今度こそ歩き出す。太もものベルトからクマのぬいぐるみを取り、一番大きな窓を蹴り開けた。窓枠が歪んで手では開きそうになかったから。

遠すぎて広場はよく見えないが、どうせ敵たちがうじゃうじゃいるんだろう。

「おいなまえ、何してんだ?」

窓から外をのぞいている俺を見て、切島が声をかけてきた。
窓の外にクマを落としながら、二人に声をかけた。

「そっちよりこっちからのが早いよ、切島、爆豪」
「へっ? おい、爆豪、やっぱこっち!」

命令すんなクソが、という爆豪の悪態を遠く聞きながら、むくむくと大きくなっていくクマのぬいぐるみを親の仇がごとく睨む。
こんなバカなことを考えたやつらを、野放しになんかしておけるか。



「心白さん、どうして喧嘩しちゃったの?」
「……だって、お兄ちゃんのことばかにしたんです。かなしかったから……」
「轟せんせー、心白ちゃん悪くないよ! あたしだって、インゲニウムやパパのこと、あんなふうにいわれたら怒るもん!」
「うーん……。だけど、仲良くしなきゃダメよ。心白さんも謝って、向こうにもきちんと謝ってもらって、仲直りしましょうね」
「……嫌です! ぐりざいゆ君があやまってくれなきゃ、わたしもあやまらない!」
「ぐ、ぐりざいゆ君……?」
prev next
top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -