戦えヒーローズ


靄に取り込まれ、黒い中をぐるぐると回される。気持ち悪くなったのは一瞬で、光が見えたと思ったら、固い床の上に落とされた。

「……? 肌色の床……?」
「いや俺の上だなまえ!」
「あ、ごめん切島か」

先に落ちていた切島の上に乗っていたようで、俺はすぐその上をどいた。
周囲をぐるりと見回すと、まあいるわいるわ、敵の群れが。知っている顔も、いくつかある。

遅れて、今度は爆豪がワープゲートから落ちてきた。爆豪を落としてすぐに黒い靄は消滅し、もう開く様子はない。散らして、と言っていたから、生徒はそれぞれ別の場所にいるのだろうか。

割れた窓から外をうかがうと、周囲は倒壊しかけた建物ばかりが建っている。そういえば倒壊ゾーンとか、13号先生が説明していた。ここがそうらしい。

「なぁんだよ、ガキばっかじゃねえか!」
「この様子じゃ、思ったよりも楽に終わりそうねえ」

俺たちが周囲の状況を把握していると、待ち構えていた敵たちが笑い声をあげる。
それを聞いて、爆豪の眉がぴくりと跳ね上がった。

手のひらが小規模な爆発を幾度も起こして、あああいつら終わったなと悟った。

思った通り、爆豪は床を蹴るが早いか、最初に笑った敵の頭をつかんだ。爆音と爆風が晴れ、目を回した敵が崩れ落ちる。
それを見て、それまでバカにした空気だったのが一気に変わった。

「次ァどいつだ? あぁ?」

敵も真っ青になるほど悪そうな笑みをたたえ、爆豪が凄む。

切島はその後ろ姿に背を押されたようで、両手をガチガチに硬化させて構えをとった。

「ともかく、こいつら倒さねーと! 俺らも行くぞ、なまえ!」
「はいよ、了解」

切島と爆豪が、敵の群れに突っ込んでいく。俺はベルトからヘビのぬいぐるみを取り外した。2mくらいの大きさにして、切島と競り合っている敵の足を尻尾で払った。

「うおっ!?」
「! もらった!」

バランスを崩したそいつに、硬化された拳が叩き込まれる。
その後ろに隠れていたもう一人の敵は、ヘビの体で締め付け拘束した。動きの止まったその隙を逃さず、今度は爆豪が殴りつける。ヘビを解いて崩れるそいつを放り、再び敵の足を狙っていく。

体勢を崩しかけた敵は、身をひねって手にしていたこん棒を俺の頭めがけて振りかぶった。それを後ろに跳んでかわすと、背後に固いものがぶつかった。

肩越しに目をやると、同じくこちらを見ている切島と目が合う。

「なまえ! おめーほかのぬいぐるみで戦えねーのか!?」
「こう狭いと無理かな。邪魔にしかなんないと思うけどやるか?」

向かってきた男をヘビの尻尾で薙ぎ払いながら答える。

俺の個性は乱戦向きじゃない。ぬいぐるみだけ投下して、高いところから見下ろしながら戦わせるならまだしも、敵味方入り混じった状態ではむしろ邪魔だ。小さい状態じゃそれなりの力しか出ないし、手持ちの中じゃヘビが一番まし。

続けて襲ってくる敵もヘビの尻尾でバランスを崩させる。切島が重装備のそいつを殴り昏倒させた。

払い損ねた敵が俺に向かってきたので、ヘビで自分の体を巻き上に逃げる。空ぶったそいつの首を脚で挟み、体を振り子のように動かして爆豪のほうへ放った。
バッティングよろしく敵が飛んでいって、安全を確保してから降り立つ。

「あと俺、本体は弱いからあんま戦えない。よろしくね」
「よろしくね、じゃねーよ! マジかよ!」
「まぁ大丈夫じゃない? ホラあれ」

切島の影に隠れながら、とある場所を指さす。

そこでは爆豪が黙々と敵を屠っていく光景が繰り広げられていた。見る見るうちに敵の数は減っていき、俺たちが手を出すまでもなく、屍の山が築かれていく。

「頼もしいことこの上ないな、こういう展開だと」
「だな……。っしゃ、俺も負けてらんねえ!」

切島は爆豪の様子を見て奮起したのか、拳を打ち付けると再び(残り少ない)敵の群れに突進した。ここまで来たら、もうヘビを出している必要もないか。

手を握りこみ、個性を解除してから小さくなったヘビを太もものベルトに戻した。

その後、爆豪と切島の奮戦により、敵たちは残らず駆逐された。二人とも息は上がっているが、目立った外傷はない。俺はさぼりまくっていたから息さえあがっていないが。

「二人ともお疲れさん」
「うっせえ死ね! 一人だけのうのうとしやがって!」
「サポートはしたじゃん。そんな怒るなよ、もう敵いないしさ」
「よし! じゃあ、とっとと他んとこの助っ人に行くぞ!」

汗をぬぐいながら、切島が言う。はて、ほかのところとは。

「俺らがここにいることからして、みんなUSJ内にいるだろうし! 攻撃手段少ねぇやつらが心配だ!」

俺らのせいで13号先生が後手に回っただの、男として責任取らないとだの、ごもっともな正論を聞き流しながら、ふと小さな物音に気が付いた。
背後を振り向くも、誰かがいる様子はない。気のせいだっただろうか。

「この期に及んでそんなガキみてえな……それにアイツに攻撃は、」
「うっせ! 敵の出入り口だぞ、いざって時逃げ出せねえよう元を締めとくんだよ! モヤの対策もねえわけじゃねえ……!」

再び顔を切島たちのほうに向けると、今まで壁だったところにカメレオンのような見た目の敵が現れ、とびかかってくる。
俺たちは反応できなかったのに、爆豪は危なげなくそいつの頭をつかみ、そして躊躇なく爆破させた。
持ち上がったそいつの顔に向け、非情な一言。

「俺らに充てられたのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」

慈悲もない、しかしもっともな一言に、敵は心身ともに沈んだ。切島の顔は若干ひきつっている。

その様子に俺が拍手を送っていると、爆豪の後ろにまたも人影らしきものが見えた。

とっさにベルトからウサギを取って、人影めがけて操る。ウサギの全長は30p程度だが、一度地面に足をついてからの体当たりジャンプは、人影のみぞおちに決まった。

「んでもって、まだいたな」

俺が見ている方向を、二人が振り向く。ウサギにのしかかられて悶絶するそいつに近づき、再びヘビのぬいぐるみで拘束した。どこかで見たような顔だった。

「ちょうどいいや。コイツから少し、事情聴こうか」




「……だから、ぼくのパパはすっごいんだ! オールマイトだってすぐに追いこすよ!」
「ふーん」
「……オールマイト、そんなにすぐ負けないもん」
「! ふんだ、心白ちゃんのお兄ちゃんなんかより、パパのほうがずっと強いんだからな!」
「違うもん! おにいちゃん、世界でいちばんすごいヒーローになるんだから!」
「ちょっと、心白ちゃん! ぐりざいゆ君もやめなよ!」
「ぜったい無理だね! ぼくのパパがいちばんだし! 心白ちゃんのお兄ちゃんなんか、一発でやられちゃうもんね!」
「ぜったいまけない! おにいちゃん、いっつも頑張ってるんだから! ぐりざいゆ君なんかだいっきらい!」
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