敵との遭遇


たどりついた訓練場は、湖があれば山もある、緑もいっぱいの施設。
USJみたいだと誰かが叫んだが、USJって何だろう。

さきに待機していたらしい宇宙服姿の先生が、俺たちの前に出て、施設のそれぞれの区域を手でさした。

「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も」

先生はそこでいったん溜め、施設の名前を口にした。

「ウソの災害や事故ルーム!!」

ウソ(U)の災害(S)や事故(J)ルーム。なるほど、USJだ。

前のほうで、緑谷と麗日が13号だと騒いでいる声がする。
彼もまた有名なヒーローらしいが、13号か。聞いたような、聞いた覚えがないような。敵との戦闘に特化したヒーローや、有名どころなら聞いたことがあるかもしれないが、それ以外となるとわからない。

なぜか相澤先生があたりを見回し、それから13号先生の元へと近づいていく。
二人はこそこそと何事かを話して、それから生徒たちのほうを振り向いた。

「えー、始める前にお小言を一つ二つ……」

13号先生は口ではそう言いながらも、指はどんどん数を増やしていく。
小言が多いタイプなのか。しかし、途中でキリがないと思ったのか、小言の数を数えきる前に、先生のお小言が始まった。

「皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んで、チリにしてしまいます」

宇宙服の中がどうなっているのか俄然気になる。緑谷が興奮した声で先生に聞く。

「その個性で、どんな災難からも人を救いあげるんですよね」
「ええ。しかし、簡単に人間を殺せる力です」

皆の中にも、そういう個性がいるでしょう。

さらりと言われた言葉に、みんな息をのんだ。なんでも吸い込んでチリにする、つまり今彼がもし心変わりを起こして、クラスメイトと相澤先生を吸い込んでしまえば、全員が死ぬ。目撃者もいないまま。
それこそ、うまく使えば世界を壊すことも可能である。それに使わないのは、偏に13号先生の良識があるから。

俺の個性もまた、父親のように使えばいくらでも殺しようはある。

「超人社会は、個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を、個々が持っていることを忘れないでください」

それまでワクワクモードだったクラス全員が、神妙な面持ちで話を聞いている。

どんなものでも突き詰めれば凶器になる。個性もまた。
それに気付くことができる機会が少ないのが超人社会だ。

13号先生は、相澤先生の体力テストの意味、オールマイトの戦闘訓練の意味をそれぞれ説いた。
曰く、前者は自分の秘めた可能性を知ること、後者はそれを人に向ける危うさを学ぶことが意図するところだったらしい。相澤先生の授業は、加えて見込みのない生徒を振るい落とす意味もあったようだが。

「この授業では、心機一転! 人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は、人を傷つけるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

「…………」

人を救けるため。

実際に、分け隔てなく人を救うヒーローなんて、ほんの一握りだろうけど。

しかしまあ、確かに、どんな個性も使い方がわからなければ宝の持ち腐れだ。救けるための使い方を学ぶのはヒーローになるうえで重要。戦い方は多少心得てはいるけど、救け方はまだまだ未熟だし、身を入れて取り組まなければ。
さっきと一転し、そんな思考になった自分を少し笑った。

大歓声と拍手の中、俺もぱちぱちと小さく拍手をする。ちょっとだけ、傷つけるためにあるのではないと、先生が言いきってくれたのがうれしかった。

歓声の合間を縫い、相澤先生が口を開く。

「そんじゃあまずは……」

手すりによりかかり、どこかを指さそうと手を動かしたその時、彼が動きを止めた。
何かあったのかと次の言葉を待っていると、突然俺たちに向かって叫ぶ。

「全員一かたまりになって動くな!!」

その肩越しに、黒い靄のようなものが見える。

なんだ、アレ。

靄はどんどん大きくなって、その中からぞろぞろと大人数が出てきた。
筆頭らしきやつらの顔は知らないが、大勢のうちいくつかの顔には、見覚えがあった。

「あいつら……!」

何年か前に、まだ本性を見せていなかった父親に連れられて行った薄暗い店。
そこで管を巻いていたやつらだ。
あいつが捕まった時にも、直前に会っていた。だからまだ覚えている。
ってことは、つまり。

「何だありゃ? また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

切島が身を乗り出そうとしたのを、相澤先生が制止する。

「動くな、あれは敵だ!」

その言葉で、みんな息をのむ。

やはり先日のはクソ共の仕業だったかと、悪態をつくのを確かに聞いた。

マスコミがなだれ込んできた事件のことだろう。
一瞬だけ俺が狙いかとも思ったが、だとしたらわざわざ授業中に来る意味がない。登下校中とか、一人になった時を狙うはずだ。
マスコミの時はパニックになっていて、その考えには及ばなかったけど。

ただ、わざわざ雄英に侵入なんて、何を考えているんだ。

考えが読めないことが、なによりも気持ち悪かった。
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