いいぞガンバレ飯田くん・1


ランチラッシュにおかゆを頼んでみたら、本当にその場で対応してくれた。

しかも卵もつけるかい?とか、ダシは何がいい?とか、こちらが戸惑うくらいの至れり尽くせりで、結局おかゆなのにとんでもなく豪華になってしまった。

人でごった返している食堂を進み、すでに席についていた飯田、麗日、緑谷の元へと向かう。ちょうど空いていた緑谷の隣に座った。

「そろったな! では、いただきます!」
「いただきまーす!」
「い、いただきます!」
「先食っててよかったのに」
「なまえくん、食べる前の挨拶とはな、」
「はいはい、いただきます」

飯田に促されて、そろって手を合わせ、各々はしやスプーンを取る。
レンゲでおかゆを掬って口に入れると、ほわんと優しい味が広がった。米とダシ、それから卵が材料なのに、俺が作ったのとここまで味が違うか。すごいなランチラッシュ。

感動していたら、ふと、隣から緑谷の視線を感じた。

「緑谷? どした?」
「えっあ! ご、ごめん、体調大丈夫かなって思って!」
「飯は食えるから平気だよ」

体調を心配したのではないことをわかりつつも、ひとまずそう返した。
やっぱり、俺の「人殺し」という言葉がどこかで引っかかっているようだ。どういう人間かは日が浅いからまだわからないが、言いふらすタイプだろうか。
ひとまず、話題を俺からそらしておくか。

「そうだ、緑谷、委員長就任おめでとう」

にっこり笑って言うと、途端に思い出したように緑谷が眉を下げた。
情けない顔だ。

「それなんだよなあ……。手を挙げたのは自分だけど、いざ委員長やるとなると、務まるか不安だよ……」
「ツトマル」

もごもごと、「お米がうまい」と言いながらご飯を食べていた麗日が相槌を打った。
同じく、カレーを食べていた飯田も大丈夫だと太鼓判を押す。

「緑谷くんのここぞというときの胆力や判断力は、『多』をけん引するに値する。だから君に投票したのだ」
「あ、やっぱ飯田だったんだ」
「でも、飯田君も委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」

意外とざっくり行く麗日。しかし眼鏡は関係ないと思う。

図星をさされたのか、飯田はぐっと言葉に詰まった。しかし、あきらめたようにオレンジジュースに手を伸ばし、一口飲む。そして少しだけ悔しそうな顔をしながら口を開いた。

「『やりたい』と相応しいか否かは、別の話。僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

なるほどなと納得しかけて、とあることに気が付いた。
それは緑谷たちも同じようで、三つの声がそろった。

『僕……!』

飯田はしまった、という顔をしたが、すかさず麗日が突っ込む。

「ちょっと思ってたけど、飯田くんて坊ちゃん!?」
「坊!!」
「聡明中だっけ? あそこ坊ちゃん学校だよね」
「坊ちゃんガッコ―!!」

爆豪がぶっ殺しがいがあるだとか言っていたけど、聡明中学はかなり有名な進学校だ。
成績以外にも家柄も見るらしいし、そう考えるとやっぱり坊ちゃんぽい気がする。眼鏡もだけど、後頭部の剃りあげとか、規則に厳しいところとか。

じっと飯田を見つめていると、とうとう認めた。そういわれるのが嫌で、一人称を変えてたんだが、と前置きをして、飯田は説明した。

「俺の家は、代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ。ターボヒーロー・インゲニウムは知ってるかい?」
「もちろんだよ! 東京の事務所に65人ものサイドキックを雇ってる大人気ヒーローじゃないか! まさか……!」

「それが俺の兄さ!」

メガネを上げながら高らかに宣言し、胸を張る飯田。
麗日と緑谷があからさま! すごいや!と声を上げた。ヒーロー一家、うちとは正反対だ。二人ほどのリアクションはできなかったので、ひとまず拍手をしておく。

インゲニウムは確か、テレビか何かでちらっと見た気がする。
俺はそこまでヒーローに興味がないから、知っているのと言えば有名どころ、それから父親に教わったヒーローくらいか。ちなみにイレイザー・ヘッドの名前もその一つ。

飯田は兄を心から尊敬しているようで、何の照れもなく兄を自慢した。

「規律を重んじ、人を導く、愛すべきヒーロー! 俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを目指した。
……人を導く立場は、まだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!」

わずかに微笑みながらそういう飯田に、俺たちは固まった。顔を凝視しすぎたのか、先ほどの俺と同じように、不思議そうに首を傾げる。
麗日はにぱっとうららかな笑みをうかべ、飯田に言う。

「なんか、初めて笑ったかもね、飯田くん」
「え!? そうだったか!? 笑うぞ、俺は!」
「いや笑ってなかったよ。毎回眉毛こんなんなってたもん」

目じりを指で押し上げて見せると、飯田がショックを受けたように身を引いた。若干誇張はあるが、大体正解だ。
すると彼は、仕返しのようにおもいきり眉間にしわを寄せ、俺に言う。

「君こそ、昨日の戦闘訓練が終わった後、こんな顔になっていたぞ!」
「うえ、マジで? もっといかつい顔してたと思ったんだけどなー」
「ナニ!? じゃあこういう顔だ!」

さらに眉間にしわを増やす飯田にみんなで笑ったら、その空気を切り裂くように、大音量の警報が鳴り響いた。


「ねえ、心白ちゃんってどのヒーローがすきなの? マイはね、インゲニウム!」
「マイちゃんの個性、すごくはやいもんな! おれはやっぱりオールマイトだな! つえーし、スマッシュかっこいいもん!」
「わたしも、オールマイトがいちばんすき! かっこいいし、それに……」
「それに?」
「……オールマイトなら、お兄ちゃんのこともたすけてくれると思うから!」
「???」
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