警戒と学級委員長


戦闘訓練のあった翌日。

切島や上鳴、瀬呂から立て続けにラインがやってきて、やや寝不足ぎみだ。そのおかげでラインの使い方はほぼ完ぺきになったけども。
眠い目をこすりながら学校に行くと、雄英は大量の報道陣に囲まれていた。

「オールマイト出してくださいよ! いるんでしょう!?」
「ぜひ一言ください!」
「オールマイト! オールマイト!!」

正門はそんな声で溢れていて、とてもじゃないが入っていける雰囲気ではなかった。

登校しようとしている生徒が軒並みインタビューにつかまっている。同じ目にあうのはごめんだ、カメラとか嫌いだし。

というか、俺はマスコミ自体が嫌いだ。
いろんな意味で。

仕方なく、俺は正門を大きく迂回して、裏から中に入ることにした。
ぬいぐるみに投げ上げてもらって校内に入り、足早に教室へと歩いた。

教室の扉を開けて、自分の席へ向かう。さきに来ていたクラスメイトからの挨拶もそこそこに、眠気に耐え兼ね、鞄を枕にしてうつぶせて目をつぶった。
始業時間までまだあるし、寝ていよう。

しばらくそうやってうとうとしていたら、いきなり机が大きく動いた。

驚いて顔を上げると、ずかずかと前に歩いていく爆豪の後ろ姿が見えた。どうやら爆豪が蹴っ飛ばしていったらしい。昨日の一件で敵視されたかな。

そういえば、戦闘訓練ではつい頭に血が上って「人殺し」と口にしてしまったが、それについては気にしていないのだろうか。あるいは、そんなことよりも緑谷に負けたことにショックを受けたか。なにも言わないならそれでいいけど。

「…………」

再び机にうつぶせながら、だけど、と思う。

緑谷は少し、怖いな。

緑谷は「すごいと思ったヒーローの分析」は全てノートにまとめているのだと言う。
昨日グループに入った緑谷が自分でそう言っていた。ヒーローになるのが子供の頃の夢だったから、子供のときからずっと続けているのだと。

緑谷も、昨日の俺の言葉を聞いていた。
ヒーローの分析をしているということは、当然オールマイトも。だったら彼が捕まえた敵のことにも詳しいかもしれない。

俺の素性に気が付くのも、時間の問題なのかも。


うつぶせていたらいつの間にか本当に眠ってしまったらしく、SHRが始まる5分前に八百万が揺さぶって起こしてくれた。ありがたい。
配布物を持った相澤先生が時間きっかりにやってきて、みんなが背筋を伸ばした。

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった。爆豪」
「!」
「お前もうガキみてえなマネするな。能力あるんだから」

たしなめられた爆豪は、悔しそうな声で「わかってる」と呟いた。
一日おいて、冷静になったのだろうか。俺に対しても冷静になってくれ。

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か」

皮肉たっぷりの言葉に、緑谷が顔を俯ける。攻撃のたびに腕壊れてたんじゃ、確かにキリがないよな。
相澤先生は緑谷のやり口に苦言を呈してから、最後に励ますようなことを言って、本題に移った。

「急で悪いが、今日は君らに……」

そこでいったん区切った相澤先生に、教室中が緊張に包まれる。
彼=急なテスト、という方程式がすでにインプットされているようだ。
しかし、次に先生が言ったのは、まったく別のことだった。

「学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来た―――!」

学級委員長。クラスにおいてリーダー的な立場の役職。別名雑用係。
しかし、ヒーロー科ではその意味合いも違ってくる。

「委員長! やりたいですソレ俺!」「ウチもやりたいス」「オイラのマニフェストは女子全員膝上30p!!」「ボクのためにあるヤツ☆」「リーダー! やるやる!」「俺にやらせろ!!」「はいはいはい!」

この人気っぷりよ。

プロになれば、サイドキックを率いて戦う、民間人の避難誘導を行うなど、多数の人間を率いることが増える。たかが学級委員長、されど学級委員長。学生時代にリーダーの経験をしておくのは、将来プラスになる。

俺もやりたい気はするけど、学級委員長の仕事で帰りが遅くなる、なんてことがあったら困る。家事やはーちゃんのご飯を作ることができなくなるかもしれないし。

「静粛にしたまえ!!」

賑やかな教室を、飯田の声が切り裂いた。
ぴたりと声がやみ、周囲が飯田に注目する。

「『多』をけん引する責任重大な仕事だぞ……! やりたい者がやれるモノではないだろう!」

うん、言っていることは正論だ。

「周囲からの信頼あってこそ勤まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!」

でも飯田、じゃあその腕はなんなんだ。

「そびえたってんじゃねーか!」
「なぜ発案した!」

誰よりも姿勢正しく伸びた腕に、クラス中がツッコミを入れた。
見た目から委員長気質だし、やりたい気持ちは人一倍なんだろう。しかし、それでも口では正しいことを言えるあたりすごいな。

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらあ!」
「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが、真にふさわしい人間ということにならないか!? どうでしょうか先生!!」
「時間内に決めりゃなんでもいいよ」

先生、飯田のこと便利だとか思ってないか。

何はともあれ、投票の結果。

緑谷が3票、八百万が2票、それ以外が全員1票と言う結果に落ち着いた。

飯田はなぜか発案者で、委員長をやりたがっていたのに0票。なんとなく緑谷に入れたような気がする。あと麗日の名前がないから麗日が入れたのかな。
ちなみに俺は誰も入れないであろう自分に入れて、面倒な事態を回避した。

爆豪はぶちギレまくりだが、民主主義に則った結果だ、あきらめろ。

「じゃあ委員長緑谷、副委員長八百万だ」

前に出た緑谷はガッチガチで目も当てられないが、大丈夫だろうか。


午前の授業が終了し、昼休憩。

今日は朝来る前にパンを買ったので、どっか人目につかないところで食べよう。さすがに便所は嫌だな。

携帯に来ていた叔母のメールに返信していると、麗日がとたとたと駆け寄ってきた。
後ろには飯田の姿も見える。

「なまえくん、お昼一緒行こ!」
「あー……ごめん、俺」
「緑谷くんも一緒に行かないか!」

俺の言葉を遮り、飯田が緑谷を誘う。
目だけでそちらをうかがうと、ぱっと顔を明るくした緑谷が、頷きながらこちらへ来るところだった。
あいつがいるなら、なおさらだ。

「……ごめん、今日ちょっと体調悪くてさ。3人で行ってきなよ」
「え、そうなん? 大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫。適当に休んでればよくなるって」
「しかしなまえくん、体調が悪い時には少しでも体力を回復させるために、何か口にしたほうがいいぞ! 果物くらいは食べられるか?」
「や、ほんと大丈夫だから、」
「ランチラッシュに言えば、きっとおかゆとか作ってくれるよ! そのあと、保健室に薬もらいに行こう?」

飯田の援護をするように、緑谷が言う。
だからお前と一緒にいると、いろいろバレそうで怖いんだって。ただでさえ、父親と顔が似てるわ個性が似てるわで大変なのに。
とは、さすがに面と向かって言うことができず。

別段悪くもない調子を案じられながら、俺は結局、3人とともに食堂へと向かった。

考えてみれば、いきなり避けるんじゃさすがに不自然だし、少しずつ接触をなくしていくほうがいいか。
一番は、緑谷が俺の発言を忘れたか、聞いていないかなんだけど。


「心白ちゃん、おはしのつかいかたきれい! すごいね!」
「え、えへへ……。あのね、お兄ちゃんが教えてくれたの!」
「心白って、いっつもお兄ちゃんお兄ちゃんだよな。そーいうの、ぶらこんっていうんだぜ!」
「ぶらこん? って、どういう意味?」
「……わかんない」
「???」
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