講評のお時間


勝ったほうが重傷、負けたほうがほぼ無傷という異例の結果を出しながら、戦闘訓練の第一戦は終了した。緑谷は重傷過ぎたので、そのまま保健室へと搬送。

俺も壊れた仮面とぬいぐるみたちを回収してから、講評の時間となった。
モニタールームに全員集まってから、開口一番、オールマイトが言う。

「まあつっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!!」
「なな!!」

飯田が驚く。
内心そうだろうなと思っていたので、俺は別に驚きはしなかった。理由はまあ、お察しだ。

「勝ったお茶子ちゃんか、緑谷ちゃんじゃないの?」
「なぜだろうなぁ〜〜? わかる人!」

疑問に思う蛙吹の声に、オールマイトは嬉しそうに生徒に聞く。しかし、打てば響くように八百万が手を挙げた。

「はい、オールマイト先生。それは飯田さんが一番、状況設定に順応していたから」

クラスの視線をあつめながら、八百万は物怖じせずに淡々と講評を口にする。

曰く、爆豪は私怨丸出しの暴走、屋内での大規模攻撃が愚策である。緑谷も同じ理由。違うといえば、爆豪が緑谷との勝負ととらえていたこと、緑谷はチームの訓練と考えていたこと、その意識の違いだろうか。
それから爆豪は、味方である俺に攻撃をしたこともマイナスポイント。

麗日は気のゆるみ、最後の攻撃が乱暴すぎたこと。彗星ホームランとやらは、緑谷がぶっこわしたビルの破片をぶっとい柱で撃ったものらしい。怖すぎる。ハリボテを核として扱っていたらまずできない手法であることを八百万は指摘した。

続けて俺の講評。

「指緒勘解小路さんは援護に索敵、どちらも中途半端に終わったこと。さらに敵であるはずの緑谷さんに手を貸し、本来援護をするべき爆豪さんを止めたことがマイナスです。あの状況では、飯田さんの元で核の保持につとめたほうが良策でしたわ」

「……」

耳が痛い。

たぶん爆豪は緑谷を殺さなかっただろうし、結果的に緑谷は大怪我を負ったのだから、俺のしたことはたいして意味がなかったということになる。
飯田と一緒に核を守っていれば、彗星ホームランに対しても多少の防御はできただろう。

とはいえ、俺の場合はオールマイトに俺の戦い方を見せたくなかったのが一番だ。
それもできなかったわけだから、自分で評価するとしたら、100点中10点くらいだけど。

「相手への対策をこなし、且つ『核の争奪』をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは、訓練と言う甘えから生じた反則のようなものですわ」

飯田は八百万の言葉に、胸を抑えて感激している。
そこまで感動することだろうか。

完璧な講評にあたりは静まり返り、オールマイトですら言葉を失った。我に返ったオールマイトは、悔しそうに(笑顔だけど)親指を立てる。

「ま、まぁ飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが……まぁ……正解だよ、くぅ……!」

どうにかして威厳を保とうとしたのか、最後にそんな言葉を付け加えて。

対する八百万はその言葉に安心した様子もなく、当然と言った様子で胸を張る。

「常に下学上達! 一意専心に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」

かがくじょうたつ、いちいせんしん。
うん、わからん。

続けて2回戦に移り、BコンビとIコンビが移動を始めた。ちらりと爆豪のほうを見ると、意外なことに何を言うでもなく、ただ青ざめた顔で立っている。
爆豪の人となりというか、そんなものはこの短時間でもわかる。
とにかくプライドが高い。それで、理由は分からないが緑谷を下に見ている。

ガキの頃から、とか言っていたし、たぶんかなり根強い。

負けてへし折られて、呆然としているとか、そんなところか。

「……」

負けたわけじゃないけど、その思いには、俺も覚えがあった。

そしてちなみに、次の勝負は一瞬だった。
推薦入学者の轟が、建物ごと敵チームを凍らせて完封勝利。
どうしろっつの、あんなの。


その後の試合も、最初の2戦で触発されたのか、気合の入った試合となった。
テープで罠をはったり、影が飛び回ったり、酸で滑ったり。さすがに雄英、すごい奴らがそろっている。

「お疲れさん! 緑谷少年以外は大きなケガもなし! しかし真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃ、みんな上出来だったぜ!」

全ての試合と講評が終了して、オールマイトはまず戦闘を終えた生徒たちをねぎらった。
しかし、なんとも腑に落ちない。

「相澤先生の後で、こんなまっとうな授業……」
「なんか拍子抜けというか……」

誰かが俺の気持ちを代弁してくれた。
というか、みんな同じ気持ちか、やっぱり。

しかしオールマイトは笑って言う。

「まっとうな授業もまた、私たちの自由さ! それじゃあ私は、緑谷少年に講評を聞かせねば!」

どこか急いだ様子でそういうと、オールマイトはすさまじい速さで消えていった。何か言っていたようだけど聞き取れない。たぶん着替えろとかそんなんか。

生徒たちは、ぞろぞろと更衣室に向かう。この後の授業はなんだっけ。確か座学系で寝そうだとか思っていたような気がするけど。
更衣室でコスチュームから制服に着替えて、俺は改めて自分の右手を眺めた。

「? おい、どうしたんだよ?」
「いやさ……なんか指骨折してるっぽいんだよね」
「はあ!?」

俺に声をかけてきてくれた赤い髪の男子生徒、確か硬化するやつが目を見開いた。

人差し指と中指が腫れ上がっている。利き手だし、これじゃノートが取れない。
ひじからテープが出る奴も近くによって来て、俺の指を覗き込む。

「うーわ、腫れてんな。緑谷ほどじゃねえけど。保健室って、使用書出さないとダメなんだっけか?」
「折れてるんだから平気だろ? とりあえず行って来いよ、遅れるようなら先生に言っといてやるからさ。コスチューム預かるぜ」
「ごめん、頼むわ」

二人に頼んで、俺はとりあえず更衣室を後にした。
ついでに、緑谷の様子も見てくるか。


「こ、心白さん……? えっと、……それは……」
「これがお兄ちゃんで、こっちがママ、こっちがパパ!」
「そ、そう……なの……」
「ぴぎゃぁああああ心白ちゃんの絵こわいぃいいい!」
「うわああああんママぁああああ!」
「!?」
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