デクvsかっちゃん


「爆豪、やぁっと見つけた」

言いながら近寄ると、爆豪は血走った眼で俺を見る。
何やら追い詰められたような顔だった。

「失せろ。俺は今猛烈にムカついてんだ……!」
「そういうこと言わない。これ授業。俺とお前チーム。今索敵してるから、怒るなって」
「あぁ!?」

俺がなだめると、爆豪はいきなり大きく腕を振りかぶった。ぎょっとしたのもつかの間、俺が今まで立っていたところに爆発する手のひらが叩き込まれる。熱風とともに飛んできた細かい欠片をかろうじて避けた。

分かっていたけど、まともに話ができる状態じゃないみたいだ。

爆豪は俺を睨みつけ、小さな爆発を繰り返す手のひらを見せつけてきた。

「俺ぁデクをやる。誰にも邪魔はさせねえ。モブはモブらしく適当に守備してろ」

そう吐き捨てると、俺に背を向け、再び緑谷を探しに行ってしまった。

俺はマスクの上から頭を押さえて、仕方なく飯田に連絡を入れた。

「飯田」
『なまえくん。爆豪くんは見つかったのか?』
「見つかったけどダメ、話聞いてくんない。しゃあないから、一定の距離保ってついてくわ。緑谷止めたいのは一緒だし」
『そうか……やはりな。こちらはフロアの片づけが終わったところだ』

爆豪の背中をぎりぎり視界に入れながら、音を立てないように歩く。声は聞こえているかもしれないが、今頭の中は緑谷のことでいっぱいなんだろう。

「じゃあ、そのまま麗日待ちだね。一人で平気? ぬいぐるみ向かわせようか?」
『向かわせ……見えないのに戦えるのか?』

俺はあくまでぬいぐるみを操るだけであって、ぬいぐるみを通した景色を見るとか、ぬいぐるみが殴られたら俺も痛いとか、そういう個性ではない。
しかし、俺を中心とした半径約2キロの球体の範囲なら、自由に動かせる。

「右とか左とか、飯田が指示してくれたら雑だけど戦えるよ。それに核の近くに置いとけば、麗日に対して牽制にもなると思うけど」
『そうか……いや、だがいい。なまえくんの優先事項は、ひとまず爆豪くんの軌道修正だ。こちらに気を取られるのは得策ではない』
「ん、了解。じゃあ、引き続きよろしくな」
『十分に気を付けてくれ。それでは!』

通信をいったん切って、また爆豪の後を追う。
それまであちこち爆破しては緑谷を追っていた爆豪は、いったんその場に立ち止まり、天を仰いだ。

「なぁオイ!! 俺をだましてたんだろォ!! 楽しかったかずっと!!」

一瞬、何を言ってるんだと思ったが、すぐに理解する。
これは緑谷への言葉だ。

しかし、だましていたとは何のことだろう。緑谷に個性があるかなんて当たり前のことを聞いたり、変な奴である。

「なあ!! ずいぶんと派手な個性じゃねえか! 使ってこいや、俺のほうが上だからよぉ!!」

何がコイツをそこまで駆り立てるのだろうか。

疑問に思いつつも、爆豪の後ろを距離を保って追う、ということをしばらく続けていたら、ウサギのぬいぐるみに反応があった。確か今は、1階の……真ん中あたりだっただろうか。

ちなみに、俺の個性はぬいぐるみのすべての動きを、自分の手で操らなければいけない。人差し指を曲げたり、中指を伸ばしたりという動きをしてぬいぐるみを操るわけだ。
自分の視界の外でぬいぐるみを動かすのは、いわば目をつぶって道を歩いているようなもの。ゆえに、最初に見取り図を渡された時点で、すべての間取りを頭に叩き込んである。

話を戻して、真ん中フロアに反応があった、ということは。

「爆豪」

少し距離を詰め、爆豪に声をかける。案の定無視されたけど、かまわず続けた。

「緑谷見つけたよ」
「!! どこだ!!」
「1階の真ん中くらい」

緑谷を見つけたウサギを操るのをやめる。
おそらく今は、元のサイズで床に落ちていることだろう。

「ウサギのある位置からすると、……こっちから回ったほうがいいね。後ろ取るなら」
「……」

爆豪はぐ、と歯をかみしめると、俺が指さした方向へと走っていった。俺にサポートされたのが嫌という感情より、緑谷への執着のほうが勝ったんだろう。

『なまえくん!』
「お、飯田。どしたなんかあった?」

通信機から飯田の声が聞こえて、俺は爆豪を追いながら応答した。

『麗日くんがやって来たァ……俺はこのまま、核を守るゥ……!』
「飯田さん!? 一体何があった!?」
『グヘヘ……俺は悪……絶対悪だ……!!』

なんなんコイツ。

とりあえず飯田のほうに心配はなさそうだ。いや、別の意味での心配はあるけれども。

非常に悪っぽい声の飯田からの通信が途絶えて、俺は首をひねりながらも足を進める。あと少しで爆豪に追いつく、と言うところで、足元にウサギのぬいぐるみが落ちているのに気が付いた。
少し綿がよっているそれを拾い上げ、ベルトに装着する。緑谷に殴られたかな。
代わりに、腰から白鳥のぬいぐるみを取って、肩にとまらせた。

ひとまず、今のところはいい感じだ。むろんチームワークとかそういう面に関しては最悪だが、俺の戦い方を見せないという面においては。
このまま緑谷を確保して、麗日は捕まえても捕まえなくても、飯田がうまくやるだろう。オールマイトに痛くもない腹を探られるのは面倒だし、何事もなく終わらせたい。

歩きを走りに変更し、爆豪の後を追う。
見つけた爆豪と緑谷は対峙しあっていて、緑谷の手には確保テープが握られていた。

どうあっても爆豪を捕まえる気らしい。
その意気やよし、と言いたいところだが。

「……おい、爆豪、何する気」

爆豪の雰囲気がおかしい。近い空気を、前にも感じたことがある。

どこでだった。思い出せ。

「てめーのストーキングならもう知ってんだろうがよお」

手榴弾のような籠手を緑谷に向け、爆豪が言う。

「俺の爆破は、手のひらの汗腺からニトロみてえなモン出して爆発させてる。要望通りの設計なら、」

装飾部分とばかり思っていた箇所を引っ張ると、そこから小さなピンが飛び出す。

「この籠手はそいつを内部に貯めて」

まるで衝撃に備えるように、爆豪は足を肩幅より大きく前後に開いた。ピンに指をかけた爆豪は、そこで言葉を止める。
ニトロを内部に貯めて、爆発。
それってつまり。

『爆豪少年、ストップだ!!』

焦ったオールマイトの声が通信機から響いた。
殺す気か、と言いかけた彼の言葉を遮り、爆豪は吼える。

「当たんなきゃ死なねぇよ!!」

思い出した。

こいつが今まとう雰囲気は、あの人と、父親と一緒だ。

軽い音とともにピンが引き抜かれ、さっきとは比べ物にならないほどの大きな、放射型の爆発。当たればひとたまりもない。
とっさに、緑谷の体に白鳥を突撃させた。

俺も衝撃で後ろに飛んでしまって、完全にかわさせることはできなかったが、緑谷の体を爆破の軌道からそらすことはできた。

「っで!」

壁にしたたか背中を打ち付けて、息が詰まる。下半身鍛える必要があるな、なんてのんきに考えてから、すぐに体を起こす。
びきりと嫌な音を立て、マスクにひびが入る。

緑谷は体の右側を著しく焦がしていたけれど、なんとか無事そうだ。白鳥のぬいぐるみも、翼の先が焦げている以外は被害がない。

「そんなん……ありかよ……!」

精神的には、無事ではなさそうだが。

「当たんなきゃ死なねえよ」という発言からして、当てる気はなかったのだろう。
だけど。

「はは、すげえ……! この籠手に溜まれば溜まるほど、威力は増えていくんだぜ?」

狂ったような笑みを浮かべ、爆豪はようやく起き上がった緑谷に近づく。

「なあ、個性使えよデク。全力のテメーを、ねじ伏せる」

完全に、頭に血が上ってしまっている。
このままではふとした拍子に殺してしまいかねない。そう判断して、俺はいったん、両手の指をすべて握りこんだ。こうすることで、操っている人形たちはただのぬいぐるみに戻る。回収が面倒だけど仕方ない。

ぼとりと落ちた白鳥のぬいぐるみを横目に、俺は背後から爆豪の肩に触れた。

途端、殺気を漲らせていた体がぎしりと固まる。

「……んだコレ、体が……!?」

本来なら首を動かすことすら不可能なはずなのに、爆豪は無理やり首を俺のほうへ向ける。指からぎちぎちと嫌な音がして、指を逆に曲げられているような痛みが襲い来る。
それでも、やめるわけにはいかない。

「いい加減にしろよ爆豪。知り合いの人殺しなんか、一人で十分なんだよ」

地面に落ちたのは、割れたマスク。

通信機の向こう、オールマイトが息を呑んだ気がした。



「こはくちゃん、もうじぶんのお名前かんじでかけるの? すごーい!」
「えへへ、ありがとう。かんたんだから書いてみたらって、お兄ちゃんが」
「どういういみの漢字なんだ?」
「えっとね、こころ、がしろい、で心白なんだって。お母さんがね、かんがえてくれたんだって」
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