やってやんぜ訓練


敵チームは先に現場に入ってセッティング、5分後にヒーローチームがスタート。

制限時間は15分で、核の場所はヒーローチームに聞かされていない。逃げきれば敵チームが勝つという、こちらに有利な条件だ。おまけにこっちの数は3人。

バカにしているわけじゃないけど、さほど苦戦もしなさそうな気がする。

現場となるビルに入ろうとしたところで、監督していたオールマイトが声をかけた。

「飯田少年、爆豪少年、それから……」
「……なまえでかまいません。他の先生にもそう言っておいてください」

いちいち迷われるのが面倒くさい。
もう後でクラスに言っておくかな。目立ちたくないけども。オールマイトはぱん、と手を合わせると、俺に頭を下げた。

「すまん、なまえ少年! とりあえず3人は、敵の思考をよく学ぶように。これはほぼ実戦、ケガなど恐れずにな!」
「はい!」
「度が過ぎたら中断するが!」
「はい!」

元気よく返事をする飯田に半笑いになっていると、ふと爆豪に目がいった。
ヒーローチームを見て歯を食いしばっている。ヒーローチームというか、緑谷か。

そういえば体力テストの時も食って掛かっていたし、何か因縁でもあるのだろうか。

「なまえくん、爆豪くん、行くぞ!」
「うん、今行く。爆豪」
「うるせえ、指図すんな殺すぞ」
「はいはい、ごめんごめん」

名前呼んだだけなんだけどな。

見取り図にあったポイントへと行くと、中心に大きな物体が置いてある。
ロケットのような形のあれが、核兵器なのだろうか。周囲にはごちゃごちゃと雑貨が置いてあったりとかで、あまり足場がいいとは言えない。

「敵になるのは心苦しいが……これを守ればいいのか?」
「ぽいね。これ、さすがに本物だったりはないよな?」

雄英なら、核とはいわないまでも臨場感を持たせるために火薬が詰まっている、とかがありそうだ。

飯田が拳でたたくと、ごんごんと空っぽの音がする。なにかが入っている様子はない。

「ハリボテだ。しかし、核兵器として扱うなら、下手なことはできないな。せいぜい場所を移動させる程度か」
「移動するにしても、ここ散らかってるし。少し片付けてすっきりさせないと」

向こうは麗日がいる。
触れたものはもれなく向こうの武器になってしまうし、第一邪魔だ。核は少し窓側に移動させて、その前に陣取る形がベストだろうか。
あれやこれやと飯田と話し合っていたら、それまで一言も発さなかった爆豪が口を開いた。

「オイ」

「ん?」

扉のほうを向いたままだから、その表情はうかがい知れない。

「デクは、個性があるんだな?」
「? あの怪力を見たろう? どうやらリスクが大きいようだが。しかし、君は緑谷くんにやけにつっかかるな」

腑に落ちないという顔で飯田が答えると、再び爆豪は黙ってしまった。
黙るのはいいが、片づけを手伝ってくれないだろうか。

足元の箱やボロ布などを端に寄せていると、飯田は今度は俺のほうを向いた。

「つっかかると言えば、なまえくん」
「なに?」
「さっき、オールマイト先生に対して少し刺々しかったように感じたんだが」

俺の気のせいだったらすまないと言いながら、飯田が片付けに参加した。
俺は一瞬だけ思わず動きを止めたが、すぐにまた手を動かし始める。

「さすがに緊張してたからねえ。なんせオールマイトの前だしさ」
「確かにな。しかしあの風格、先々まで見渡した授業の構成はさすがだ!」
「そーね」

ウソは言っていない。オールマイトの前だから緊張した。俺があの男の子供だとばれるかもしれないから。

オールマイトと言えど、分類すればヒーロー。ヒーローが敵の子供に対して優しく接するわけがない。ヒーロー科を卒業した人間でも、人格者であるとは限らないように。

だけど、戦闘の様子を見たら、おそらく勘づくだろうとは思う。
確信を持たれる前に、緑谷たちを捕まえて戦闘を終了させる。それが一番良い手だ。

『それでは、Aコンビ対Dトリオの屋内戦闘訓練、スタート!』

オールマイトの声が室内に響く。すでに5分が経過したようである。

今から突入したとしても、まだ5階に来るには時間がかかるだろう。
1フロアずつ確認していくならさらに。片づけを続けようとしたら、鈍い音を立てて扉が開いた。

振り向くと、爆豪の足だけが最後に見えた。

「……え、何してんのアイツ」
「爆豪くん!? 何をしてるんだ彼は!!」
「待て、小型無線あるだろ。それで聞こう」

同じく飛び出していこうとした飯田を押しとどめ、小型無線の電源を入れる。

しかし、ノイズが走るばかりでつながらない。どうやら向こうが切ってしまっているようだ。爆豪が入れるか、何かの拍子でつかないかしないと連絡が取れない。
本当に何してんだアイツ。

「彼はどうするつもりなんだ!? 作戦もまだ立てていないというのに……!!」
「落ち着けって」

いきりたつ飯田をなだめ、腰からぬいぐるみを3つ取る。
クマが1つとウサギが2つ。

俺と同じくらいの大きさにしてからその場に整列させると、飯田は目を見開いた。

「すごいな……一度に3つも使えるのか?」
「頑張ればもう少しいけるけど、索敵なら妥当だろ。俺は爆豪探して、ぬいぐるみには麗日と緑谷探させる。飯田はここで守備、でいいかな?」

飯田がうなずく。手数はこれで十分だろう、あとは爆豪を探して、可能ならば軌道修正させる。
まあ無理だろうけど。

「おそらく、爆豪くんは緑谷くんを狙い撃つだろう。どうも因縁があるようだからな。となると、ここに来るのは麗日くん一人だ。核と俺たちを見つけ次第、連携を取ってくるはず」
「だね。麗日一人じゃ核はまず無理だ。緑谷はあのバカ力が怖い」
「ああ。だが、向こうは2人、この手数なら押し切れるだろう」

分身できるとかならまた話は違ってくるが、向こうにそんなやつはいない。爆豪と緑谷が不確定要素だけど、ひとまず考えるより動けだ。爆豪がつっぱしって失格になる前に捕まえないと。

「んじゃ、そういうことで。なんかあったら連絡よろしくな」
「ああ、頼んだ!」

扉から出て、ウサギとクマのぬいぐるみを方々へ散らす。
ヒーローチームはおそらくまだ1階から2階のどこか。爆豪もそれをわかっているだろうから、とにかく下層へ向かうことにした。

階段を駆け下りながら、あちこちを見回す。まだぬいぐるみを操る指に反応はない。

3階、まだいない。てことはさらに下か。

『なまえくん、爆豪くんは見つかったか?』
「や、まだ。もうちょい下にいそうな」

予感、と言いかけたとき。

俺のちょうど下が爆音を立てて、建物が大きく揺れた。
思わず壁に手をついて衝撃をこらえ、すぐ耳をすませる。電源が入ったのか、爆豪の声も聞こえた。

『おい、爆豪くん! 状況を教えたまえ! どうなっている!』
『黙って守備してろ、ムカついてんだよ俺ぁ今!!』
『気分を聞いているんじゃない! おい! ……切れた……勝手に飛び出しといて、なんなのだ彼は、もう!!』

また、爆豪との通信が途絶える。飯田も若干キレているけど、無理もない。

『なまえくん、今すぐ爆豪くんと合流してくれ! 冷静な状態じゃない!』
「聞いてたよ。とりあえず、下の階っぽいから探すわ」

下の階へと続く階段を探して降りて、再び爆豪を探す。
賑やかなところを探せばたどり着くだろう。あっちじゃないこっちは行った、と入り組んだ通路をあちこち走り回っていると、すぐ近くで何かが爆発する音がした。

音の聞こえたほうに足を向けるまでもなく、壊れたドアを踏みつけながら、鬼の形相の爆豪が現れた。


「! 心白さん、何つくってるの?」
「あ、とどろき先生! これは、お兄ちゃんにあげるぬいぐるみ作ってるんです」
「へえー、もうお裁縫できるんだ! これ……は……?」
「これはふくろうで、こっちははりねずみです」
「……じょ、上手、だね……」
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