ただそれだけを抱いて


中学に入ったなら、誰にでも平等に訪れるものがある。それが卒業だ。

桜は前日の雨でだいぶ散ってしまったが、それでもまだ花は咲いている。ちぎれたような雲が一つ二つ浮いた空に桃色がふわふわと舞っていて、まるでどこかのドラマのような光景だ。

卒業証書の入った筒を手に持ちながら、友達と肩をたたき合ったり、高校に入ったらどうしたいかを話したり。あー青春っぽいなあ、とか、他人事のように思った。
俺の周りでそんなことをしているやつらは、みんなどこか寂しそうな顔をしている。

「みょうじ、絶対連絡しろよ。また遊ぼうぜ」
「うん、連絡する連絡する」
「寂しくなるなあ。なんでまたそんな遠いところに決めたんだ? こっち残るって手もあったのによー」
「はっはっは」

不思議そうな友人の質問は、苦笑いしてごまかした。

俺は、中学を卒業すると同時に引っ越すことが決まっていた。親の転勤が決まってしまったためだ。なんてったって飛行機の距離だ、みんなと同じ学校に通えるわけがない。
彼の言う通り一人暮らしをするという手もあったけど、俺はあえてその選択を消した。

理由の一つとして、親に許可がもらえなかったこと。それだけはどうしてもクリアできなかった。家や学校はどうにかなるが、許可がもらえないとどうにもならない。

そして、もう一つの理由。それは、俺の超個人的なものになる。正直親が一人暮らしを許してくれたとしても、俺はここに残らなかっただろうと思う。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「おー。この後お前の送別会だからな、忘れんなよ」
「はいはい」

友人たちに手を振り、一旦その場を去る。送別会を催してくれるとは、いい友達に恵まれたものだ。

手を取り合って泣いている女子たちを横目に、トイレを通り過ぎて、校舎裏へ向かう。
なんでも食べる鯉がいる貯水槽を曲がると、目的の人物が目に入った。

「あれ、意外と早かったんだね、爆豪」
「るっせ」

壁に背中を預け、だるそうに座っていた爆豪が、俺を見て舌打ちした。

爆豪勝己、大抵のことはなんでもできるボンバーマンだが、短気だわいじめっ子だわで性格の方はヘドロ野郎という、いわゆる不良だ。
それでも頭や「個性」は一級品で、名門校である雄英に進学が決まっている。

そんな彼がなぜこんなところにいるかというと、俺が呼び出したからである。

最初に声をかけた時点で机を爆破されたのだが、あーそうか呼び出し怖いよねーと煽ったら即座に来た。こいつは扱い方を間違えなければ相当面白い人間だと思う。

「おい、用あんならとっとと済ませ。俺は暇じゃねーんだよ」

手のひらを軽く爆発させ、こちらを威嚇しながら爆豪がいう。
こちらとしても、あまり時間がないので、さっさと本題に入らせてもらうことにした。

「じゃあ、お言葉に甘えて。俺爆豪のこと好きだったよ」
「…………は?」
「だから第二ボタン欲しいなと思って」

呼び出した理由、それは告白するため。

俺の突然の告白に、爆豪はらしくない間抜け面をさらしている。
校舎裏で卒業式後に告白し、第二ボタンをねだる、古典的かつべたべたしいシチュエーション。ただし両方男。うち一人は告白した相手に手ひどくいじられまくっていた。

俺は、爆豪によくつっかかられていた緑谷と仲が良かった。
お互いオールマイトが好きだということで趣味が合ったし、緑谷は無個性、俺も大して強力な個性ではなくて、そこで妙なシンパシーを感じていたから。
それでも彼もまた雄英に行くというのだから、それも崩れてしまったが。

緑谷と一緒にいたら、自然俺も爆豪によく絡まれる。
煩わしいと思っていたのがどうしてこうなったのか自分でも理解不能だけど、まあ衝動だろう、思春期なんだから。
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