クジ引きだぜチーム決め


俺の希望したコスチュームは、上がシャツ、下がスラックス、顔にマスクというごくごくシンプルなもの。腰にぬいぐるみを着けておけるチェーンが付いたベルト以外、特に指向性を意識する必要もないからだ。
マスクは父親に似た顔を隠すためのものだし。

しかし、いざコスチュームを見てみると、大幅に装飾がプラスされていた。

「…………」

シャツだけなのにベストやネクタイがついていたり、ただの革靴がブーツになっていたり。叔父さんがチェックしたらしいからそこまで奇抜ではないけど。

ちらりと周囲を見ると、アメコミヒーローのようなデザインが多い。たまに西洋の王子っぽいのがいたりするけど、かっちりしたコスチュームの奴はいなさそうだ。

目立ちたくはない、けど。

「はぁ」

ため息をついて、俺は胸のネクタイに手をかけた。

一見ただの服に見えたコスチュームは、今まで着ていた制服とくらべものにならないくらい軽くて丈夫だ。
さすがである。
太もものベルトに心白が作ってくれたぬいぐるみをいくつかぶら下げて、髪を結んだらマスクをつける。
顔の上半分を覆い隠す、ペストマスクみたいに前へ突き出たデザイン。これもただの白いマスクだったのだが、叔母の手によってこうなったらしい。

「形から入るってのも、大切なことだぜ少年少女!」

グラウンドへ向かう俺たちの元に、オールマイトの声が届く。

「自覚するんだ、今日から自分はヒーローなんだと!」

通路を抜けると、太陽の光が真上から降り注いで、まぶしさに目を細めた。

ヒーロー。そうだ、俺はヒーローだ。ヒーローにならなきゃいけない人間だ。
言い聞かせるように内心で繰り返す。オールマイトはそんなことには気づかず、全員を見て頷く。

「いいじゃないか、カッコいいぜ! さあ、始めようか有精卵ども!」

マスクの下で、俺は小さく鼻で笑った。

まだ着替え終えていない生徒がそろうまで、その場で待機となった。
周囲のコスチュームを眺めていたら、「おーい」とこちらに寄ってくる一つの小さい影が。

「あ、麗日のコスチュームかっこいいね。宇宙飛行士みたいだ」
「へへ、ちょっと恥ずかしいんだけどね」

照れくさそうに言うのは、ちょっとセクシーなコスチュームに身を包んだ麗日。
個性が無重力だから、宇宙を意識したのだろうか。

「ね、デクくんどこだろ?」
「さあ? 緑谷、コスチューム持参だったよね」
「うん。……あ、いた! デクくん!」

麗日が通路のほうを見て顔を輝かせる。
俺もつられてそちらを見ると、緑谷らしき人物がいた。全体は緑のジャンプスーツっぽくて、頭にはぴょこんと飛び出た二本の耳。顔を全体覆っているのが面白い。

緑谷もこちらに気が付いたようで、ぱっと顔がこちらを向いた。

「麗日さっ……おお!?」

なぜか麗日を見て驚く緑谷。しかしそんなことにかまわず、彼女は緑色のコスチュームを褒める。

「かっこいいねー! 地に足ついた感じ!」

しかし緑谷は聞いちゃいない。
なぜか口元を抑え、麗日を上から下まで眺めている。気持ちは分からなくもないが、見すぎだと思う。凝視癖でもあるのだろうか。

さすがにその視線に気が付いたのか、恥ずかしそうに麗日は頭をかいた。

「要望、ちゃんと書けばよかったよ……。パツパツスーツんなった、ハズカシ」
「いいじゃん、ミッドナイトとかよりましだよ」
「あの服と比べんでよ……。なまえくんのもかっこいいね! なんかピエロみたい!」
「あー……ありがとう」

上半身は、黒のワイシャツとハーリキンチェックの燕尾風ベスト。下半身は黒いスラックスと、右足のふとももにぬいぐるみをぶら下げたベルトに、顔はペストマスクもどき。

色合いとしては赤白黒だから、確かにピエロに見えなくもないが、俺の要望はほぼスルーだ。
まぁ、カッコいいしいいけど。

「ヒーロー科最高」
「えぇ!?」


「さぁ、戦闘訓練のお時間だ!」

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!」

オールマイトの出鼻をくじくように、飯田の声がする。
たぶん前のほうにいるんだろう。俺のいる場所からは見えないけど。俺の前に立っている……障子だっただろうか。彼が大きすぎて見えない。

しかしオールマイトは飯田の言葉を否定した。

「いいや、もう2歩先に踏み込む! 敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば、屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ」

監禁、軟禁、裏商売と、オールマイトが例を挙げていく。
脳内であと殺人や麻薬取引もね、と付け足した。凶悪といおうか、小賢しい奴が多いという印象だけど。

しかし、確かに屋外の敵退治が比較的ニュースにも取り上げられやすくはある。ネットニュースなんかは、記事にしやすいからか屋外のものばかりだ。
反対に屋内の敵を捕縛したというニュースになると、敵の背景から何までを詳しく報道するのが常。それが「凶悪」とされるゆえんだろう。

「このヒーロー飽和社会……ゴホン! 真に賢しい敵は闇に潜む。君らにはこれから、敵組とヒーロー組に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう」
「基礎訓練なしに?」
「その基礎を知るための実戦さ! ただし、今度はぶっ壊せばオーケーなロボじゃないのがミソだ!」

「勝敗のシステムはどうなります?」「ぶっ飛ばしてもいいんスか」「また相澤先生みたいに除籍とかあるんですか?」「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか!」「つか2対2だと一人余りませんか」「このマントヤバくない?」

「んん〜〜聖徳太子ィ!」

聖徳太子だったらあと4人はいけるね。

その後、カンペを見ながら説明したオールマイトの言葉をざっくりまとめると。

状況:敵が核兵器を保有、ヒーローはこれを回収するべく乗り込む
ヒーロー勝利条件:核にタッチ、もしくは敵2名を捕縛
敵勝利条件:核を制限時間まで保守、もしくはヒーロー2名を捕縛

ということらしい。
いささか設定がアメリカンなのが気になる。核兵器保有した敵ってどういうことだよ。

とりあえず、相手を倒したら勝ちというわけではないらしい。捕縛はテープを巻き付ければ成立するらしく、なんだか鬼ごっこのようだ。

「コンビ及び対戦相手はクジだ! そしてどこかが3人チームになるぞ!」
「適当なのですか!?」

また最高峰云々を言いかけた飯田を、緑谷の声がなだめている。

「プロは、他事務所のヒーローと急造チームアップすることが多いし、そういうことじゃないかな……!」
「なるほど……先を見据えた計らい……! 失礼いたしました!」
「いいよ! 早くやろ!」

かくして、出席番号順に各々が一つずつボールを取り、チームが組まれていく。

俺が一番最後なので、すでに2名で組んでいる中に組み込まれる形になる。
やはりオールマイトがじっと見てきている気がしたが、気にしないふりをしてボールを取った。

チームは「D」。飯田、爆豪と同じチームだ。

「よろしくなー、お二人さん」
「ああ、よろしく頼む、なまえくん!」
「ケッ」

爆豪、テレビでしか見たことないけど、放送された内容を言ったら怒りそうだ。
しかし本当にヒーローっぽくない。どちらかというと敵に近いんじゃないか。性格だけは。

チームが組み終わったところで、オールマイトは今度は「VILLAIN」「HERO」と書かれた箱の中に手を突っ込んだ。

「最初の対戦相手はー……こいつらだ!」

そして取り出されたのは、黒いDのボール、白いAのボール。
敵がD、つまり俺たち。ヒーローがA、ということは。

「Aコンビがヒーロー、Dコンビが敵だ!」

緑谷、麗日が相手だ。


「ねえ、心白ちゃんのお兄ちゃんって、ゆーえーなんでしょ? すごーい!」
「うん。お兄ちゃん、すっごくかっこいいんだよ」
「いいなー。おれも大きくなったら、ぜったいゆーえー入るんだ!」
「ゆーえーの先生、みんなヒーローだもんね、すごいよねえ」
「今年からね、オールマイトも先生になるんだって! お兄ちゃんの、えっと……ゴーカクツウチ?にオールマイトがいたの!」
「オールマイトってちいちゃくなれるの!?」
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