いくぜ雄英


「おにいちゃん、お手紙きてた!」
「ん? おー、ありがと、はーちゃん」

妹の小さな手から、郵便物を受け取る。表面には雄英高等学校の文字。
つい先日受けた、高校の試験結果だろう。

はーちゃん、もとい、心白の頭をぽんぽんと撫でてあげてから、通知をエプロンのポケットにしまう。
その様子を見て、心白は不思議そうに首をかしげた。

「読まないの?」
「後でね。はーちゃん、お洗濯ものたたんでくれる? 俺のシャツはハンガーかけといてくれればいいから」
「うん、わかった!」

心白は可愛らしくにぱっと笑うと、軽やかにベランダへとかけていった。俺はそれを見送り、ポケットに目をやる。自己採点ではぎりぎり合格ラインだが、結果は果たして。

鍋がぼこぼこと不穏な音を立て始めて、俺は慌ててかき混ぜる手を再開した。


俺の父親は、俺が小学生の時に逮捕された。

敵名は「マリオネッター」。自分の個性を悪用して、人を殺めたり建物を壊したりしていたらしい。自分の後ろ暗いところを妻にさえ悟らせないような、明るい人だった。

「敵の子供」という肩書は、この超人社会、ヒーロー優遇社会において、非常に重い。

夫が捕まったショックと、度重なるいやがらせやマスコミの対応に、母親はげっそりとやつれた。

「ごめんね、守ってあげられなくて、ごめんね」

そう言っては、俺を抱きしめて泣いていた母親は、妹を生んだと同時に衰弱して亡くなった。最期まで悲しそうな顔は消せなかった。
だから、決めた。

母親の無念を晴らして、何も知らない妹に、俺が経験したような肩身の狭い思いをさせない方法。

俺がプロのヒーローになって、「敵の子供」という烙印から、「プロヒーローの妹」に変換させること。

父親と同じ個性なんて嫌で嫌で仕方がないけど、背に腹は代えられない。
むしろ、同じ個性で違う使い方をすれば、より強い印象を与えられる。そして、卑屈な印象を与えてはいけない。そんなのヒーローらしくない。
だから父親の真似をした。
いつでもおちゃらけて、人を笑わせるのが好きな、家族の前で見せていた顔を。

「……はぁ」

親戚に土下座して頼んで、雄英を受けさせてもらったのだ。合格できていなかったら合わせる顔がない。
胃が痛い、と腹をさすりながら、俺は冷蔵庫を開けた。


夕食を終え、心白を風呂に入れて、俺も家計簿をつけて。

今、俺の手には雄英の合否通知、膝の上には心白がいる。

「はーちゃん見るの?」
「見たい! ……でも、ダメなら我慢する!」
「いいよいいよ、一緒に見ようか。俺もちょっと怖いし」
「だいじょうぶだよ! おにいちゃん、かっこいいもん、すっごく!」
「ありがとね。うし、じゃあ開けるよ」

じょきじょきと封筒の短辺をはさみで切り落とし、中身を確認する。何かのディスクと、白い書類が見えた。ひとまずは手紙から見ることにした。

そわそわしている心白をじらすようにゆっくり紙を広げる。
まず目に飛び込んできたのは、二つの漢字だった。

「……ごう、かく……合格?」
「ゴーカク? それって、入ってもいいってこと?」
「うん……おっしゃ! にーちゃん合格したぞ、心白!」

膝の上の心白を抱きしめ、立ち上がってぐるぐる回る。
彼女もきゃあきゃあ言って楽しそうだが、あんまりうるさいと床ドンが来るので、静かに回ってから再び座る。

ひとまず第一関門は突破だ。入学したら、あとは自分の力でのし上がらなければ。

喜んでいる心白の頭を撫で、次にディスクを取り出した。
机の上に置いて、電源と書いてあるボタンを押す。

途端、テレビやら雑誌でおなじみの姿が現れた。

『私が投影された!!』

「うおっ!?」
「オールマイトだ! すごい、本物!?」
「や、映像だけど……つーか音でかい、ちょっと下げないと」

一旦映像を止め、音量ボタンのマイナスを連打する。
再び流し始めると、オールマイトはキラキラのスーツを着こなし、こちらに向かってお辞儀をした。

いつ見ても画風が違う。文章じゃ伝わらないけど。

『まずは、入試お疲れさま! 自分の力と個性は出し切れたかな? え? なんで私が投影されたかって? それは、この春から私が雄英に勤めることになったからさ!』

「まじか」
「オールマイト、せんせい?」
「そうだね」

映像は続く。

『まずは合否についてだが……おめでとう、合格だよ! 扱いが難しそうだが、鍛えれば戦闘にも災害救助にも大きく役立つ個性だ! 雄英で存分にその力を伸ばしていってくれ!』

なるほど、先にディスクを見たら、オールマイトが合否を教えてくれていたのか。
ちょっともったいないことをしたかもしれない。
オールマイトのファンの心白は、きらきらした目で映像の彼を見ている。

『詳しくは同封の紙を見てくれ! 君と出会えるときを楽しみに待ってるよ! それでは!』

エンディングのような音楽を流しながら、映像が途絶える。
なるほどエンターテイナーだ。
……というかこれ、もしかして合格者一人ひとりにそれぞれ撮ってたりしないよな。あり得るから怖い。オールマイトだし。

「おにいちゃん、オールマイトせんせいなんだって! すごいねえ!」
「な。そうだ、サインもらえたらもらってきてあげようか?」
「うん!」

無邪気にはしゃぐ彼女は知らないだろう。

俺たちの父親を捕まえたのが、このオールマイトだなんて。


「よし、じゃあちょっと俺走り込み行ってくるよ。はーちゃん先寝ててな」
「ううん、まだ寝ない! おにいちゃんのぬいぐるみ作る!」
「ッ……ありがと! でも遅くならないうちに寝てな。あと指気をつけて。明るいところでやんないと目悪くするからね! 行ってきます」
「うん、いってらっしゃい!」
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