予想していた想定外


「だって俺、上鳴が落ちるとは思わなかったし」
「うぇ?」
「演習試験にしろ筆記にしろさ、対策頑張ってたじゃん。落ちたら逆にびっくりするわってくらいに」

実技に関しては俺はほとんど何もできなかったが、筆記に関しては相当面倒を見たと思う。何せ偏差値を20近くも上げたのだ。
一緒に勉強したからか、俺も最初の志望校より2ランクくらい上の高校に合格できたし。

さすがだとは思うものの、なんとなく大丈夫だろうとも思っていたので、予想が当たったなー程度の反応しかできないのである。
これでもし落ちていたら慰めるくらいはしてやっていたかもしれないが、合格したという知らせに関しては意外性がない。

「つか俺のリアクションが薄いのはお前も知ってんだ、ろおおっ!?」

背中の上鳴を振り向こうとしたら、突然バチバチと体中に電流が走った。比喩ではなくリアルである。
しびれた手がゲーム機を取り落として、床に落ちていく。画面が消えるのとセーブどこでやったっけと考えるのは同時だった。

「……おい……」
「わ、悪ぃ……えっと……」

気まずそうな上鳴の声。これはとっちめてやれねばと、腕を掴んで前に引き寄せる。
そこでようやくきちんと顔を見て、俺は固まった。

「……お前何顔赤らめてんの」

顔を真っ赤に染めて、涙目で片手で自分の口を覆い隠している。
まるで女子だが、今時こんな反応する女子も珍しい気がする。ちらちらと俺を見上げて、意味のない言葉を漏らしている。

「だ、だって、まさかみょうじが、」

しどろもどろの上鳴に怒る気力も失せて手を離し、ため息をつく。

「まあ、でも確かに、さっきはちょっと薄すぎたよな。合格おめでとう、上鳴」

今度はちゃんと目を見て言うと、上鳴が目を大きく見開いた。その頭を軽くぐしゃぐしゃと乱してから、俺はぐっと伸びをした。

とりあえず、アレか。何か合格おめでとう会でも開いてやれば満足するのだろうか。じゃあお祭り好きの誰かにその役目を放り投げておこう。

連絡しようと今度は携帯に手を伸ばしかけたところで、その手を上鳴がとる。
静電気のようにばちりと痛みが走って、まだ気が高ぶっているのがわかった。

「何、今度は」
「あ、のさ」

手汗で張り付く手のひらが若干気持ち悪い。
しかしそれにかまう余裕もないのか、上鳴は冬の室内で汗をだらだら流しながら、赤い顔のまま動かない舌を動かし続けている。

つられて俺まで暑くなってきた気がする。

「が、がっこう、高校違うし、は、離れるだろ? だから、っと、決めてたってか、その」
「簡潔に」

わけがわからない。
とりあえず深呼吸しろと言ったら、大げさに肩を上げ下げして、上鳴が深呼吸した。
そして再び俺をまっすぐ見据えると、真っ赤な顔のままで。

「雄英受かったら言おうと思ってました、俺と付き合ってください!!」

なるほど、付き合ってくださいと。……は?

「え」

付き合うって。
どこに、なんて古典的な間違いはさすがにしない。この場合の付き合ってくださいは、つまりそういう関係になってくださいと言うことで、それはええと、だから。

思考停止した俺をじれったく思ったのか、上鳴の手から再び電流がほとばしる。その刺激が俺を正気に戻した。

「はっ」
「へ、返事は!」
「あ、うん。……は!?」

おい、さすがにこの流れは予想してなかったぞ。


「今うんって言った! うんって言った!」
「ちょ、待てうるさいアホ」
「…………」
「ごめんて! 付き合います!」
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