予想していた想定外


「みょうじみょうじみょうじ! 聞けみょうじ!!」
「うるさいアホ」
「……あ、うん……」
「……ゴメンて。聞くって」

俺が自室でせっせとゲームをしていたら、うるさいクラスメイトがやって来た。

一旦ゲーム機をスリープさせて、うずうずしている様子の上鳴に向き直る。
またナンパが成功したとかかな。それとも何か欲しいものでも手に入ったか。コイツは意外とガラスのハートなので、一回すねると面倒くさい。
適当に相手をしてさっさと帰ってもらおうと、俺はすぐ本題に入ることにした。

「で、何」
「ふっ……聞いて驚け!」
「見て笑え?」
「いや笑うなよ! これだ、これを見てみろ!」

誇らしげに目の前に突き出されたのは、何やらぺらぺらの紙。
受け取って印刷された文字を読んでみると、合格通知と書いてある。下には雄英高等学校ヒーロー科の文字とロゴ、そしてハンコ。

雄英の合格通知か、なるほど。そういえば受けるとか言ってたな。
うちの中学って雄英進学者いたっけなあと、答えなど出す気もない問いを考えながら、その紙を返した。

「おめでと」
「おう! ……そんだけ!?」
「そんだけって?」

ゲーム機に手を伸ばしながら聞く。

上鳴は納得がいかないのか、ばさばさと合格通知を振り回して喚いている。
おそらく反応が薄いだとか、もっと驚けとか言いたいのだろうが、それは無理な話だ。そしてその大切な合格通知を粗末に扱うんじゃない。

ゲーム中で襲い来る敵をオールマイトでガンガンつぶしていると、ゲーム機と俺との間に、いきなり不満げな上鳴が頭を突っ込んできた。
なんとなく、猫を思い出した。

「うわ、何してんだビビった!」

俺の言葉にひるむことなく、頬を膨らませた上鳴(可愛くない)が体を進出させてくる。ゲーム画面を己の体で阻みながら、口をとがらせている。

「せっっっかく、合格通知見て速攻で教えに来たのにさー、みょうじひどくね? 俺お前のこと嫌いになっちゃうぜ?」
「知らねーよ……キモい、とっとと離れろ」
「でっ」

軽く頭をはたくと、上鳴はぶつくさ言いながらも体を引っこ抜いた。
そういうことは彼女にでもやってろ。俺もできたらかわいい女の子にやってもらいたい。

再びゲーム機に向かうと、今度は背中にぴったりとくっついてくる。腹に腕が回って、ちょうど後ろから抱きつかれているような恰好になった。
だから彼女にやれと。いやもういいや。ぬくいし。

放っておいてもいいけど、元気がない上鳴がなんとなく気持ち悪かったので、話を聞いてやることにした。

「何、俺の反応がそんなに不満?」
「……不満っつーか……もっと喜んでくれるもんだと」
「今日は祝杯上げるぞーってレベルで?」
「お前がそんな愉快なキャラだとは思ってねーけどさ。……けど、もうちょっと、ワァーとか、すげえーとか」
「んー……」

こうしてほしい、ああしてほしいと、ぼそぼそしゃべっているのを聞きながら、俺は頭をかいた。こいつが言わんとすることはわかっているのだが、そういう反応は無理なのだ。
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