□生まれ変わっても愛してる
地面から数mのところで、みょうじとかち合う。
すぐ抱き留めて、勢いのままビル側に背中を向けた。
ガラスが割れる音と、あたりの物が壊れる耳障りな音。反対側の壁にぶちあたって、ようやく止まった。秀次のキック力をなめていたようだ。
今は、それよりも。
「みょうじ、おい!」
「……あれ、……米屋?」
ぽかんとした表情で、みょうじがおれを見上げる。どうにもたまらなくなって、細い体を抱きしめた。みょうじは動かなかった。
「みょうじ、……みょうじっ……!」
「……米屋、なんで俺生きてるの」
「おれが助けたからだっつの、……このバカ」
「ああ、そう……。ごめん、迷惑かけて」
何も言えなくて、首を振った。
知っていたのだ。
彼の家が壊れかけていることも、彼が日常的に暴力を振るわれていたことも、……おれを疎ましく思っていたことも。
だけどそれでもよかった。
ただ生きていてくれればそれでよかったのに。
「みょうじ、すげー無理してたんだな」
「……米屋?」
「ちゃんと守るから。もう無理はさせねーから」
引き離されてもいい。
おれの勝手な思いで、これ以上彼を苦しめたくはない。
抱き締めていた体を放すと、いぶかしげな顔をしたみょうじがいる。
笑ってみせたら、奥に秀次が降り立ったのが見えた。
「陽介! みょうじ!」
「あ、三輪。……そうか、三輪隊の担当だったんだ」
「お前、一体何して、」
「あー、まあまあ秀次、助かったんならいいじゃん。そろそろ任務戻らねーと」
「だが……」
言い募ろうとする秀次をなだめて、どうにか納得させる。後で説明を求められるだろうけど、ひとまずごまかしておこう。
先に戻ると言い残して去って行った秀次を見送り、改めてみょうじに向き合った。
気まずそうにしているみょうじに少し笑った。
彼がそんな顔をする必要はない。思い詰めていたことに気づかなかった周りと、気づかせようとしなかったおれが悪いのだ。
全ては、みょうじを独り占めしたかったから。
だけどそれが、彼を苦しめていた。
「みょうじ」
「……何?」
「ばいばい」
遠くに行ってしまっても、俺のことを憎んでも、俺は変わらずみょうじが好きだろう。
突然の別れのあいさつに、彼は首をかしげた。
その顔をかすめるように、かさついてひび割れている唇を奪う。
ばいばいみょうじ、どうか幸せになってくれ。例え生まれ変わっても愛しているから。
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