□できるキノコの真価
小テスト、25点。
ちなみに100点満点。
笑いすら出てこない点数に思わず真顔になっていると、横からひょいとのぞき込んだ時枝が、ぼそりと「うわ」とつぶやいた。
「うわって何。うわって何!!」
「ごめん、うっかり。……すごい点数だね」
「もうね……。笑いすら出てこないよね……」
フォローが得意な時枝ですら、うまいフォローはできないらしく、代わりにぽんぽんと背中を叩かれた。その優しさが胸に痛い。
30点以下は再テスト、それでもとれなきゃ再々テスト。それでもダメならという無限ループが先ほど伝えられたばかり。
自慢じゃないが、答えを丸覚えすらできない俺が、そんなループから抜け出すすべなどない。終わった。再々々々……いくつ付くかな。
「もうだめだ……永遠のテスト地獄だ……」
「大丈夫だよ。おれでよければ教えるから」
「時枝様……!!」
学校以外のことでも忙しいだろうに、時枝はさらっとそんな提案をしてくれた。
迷惑じゃないかと聞いてみたが、教えることで頭に入るからとありがたいお言葉をいただき、俺は心底時枝を尊敬した。
さすができるキノコと言われるだけある。
「ほんっとにありがとう! なんかお礼する! 何がいい?」
「すぐには思い浮かばないし、考えておくよ。放課後おれの家でやろうか」
「はい! 時枝先生!」
「先生はやめて」
「時枝先輩!」
「同い年だよ」
「いてっ」
一瞬指先に痛みが走る。こちらへ指の腹を向けると、ぷくりと赤い血が玉になった。
「どうしたの、みょうじ」
「指切った。……あー、地味に痛い」
教科書をいったん閉じて、傷口を両側から押してみる。指紋にそってじわじわと血が広がった。にじむような独特の痛みが不快だ。
それをやめさせながら、時枝が傷口を見た。
「結構深く切ったね。痛い?」
「若干。絆創膏ある?」
「その前に消毒しないとダメだよ」
「え、そんな大げさな」
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