□幽霊少年の失態
昼休み、俺はいそいそと体育館裏に向かった。
教室だと俺がいることに気づかない奴が勝手に机使ったり、告白スポットだと俺がいるのに気づかず青春の1ページが始まったりしちゃうので、ほどよくじめじめしていて人が全然来ない、むしろ虫が集まりそうな体育館裏が一番いいのである。
録画した影浦を見ようとスマホの影浦フォルダを開く。写真とムービー合わせて自分でも引く量だ。
一番新しいムービーをタップし、イヤホンをつけて再生を始める。授業中はさすがに授業を聞いているのでゆっくり眺めるヒマはあまりなく、こうして昼休みにがっつり眺めるのが日課だ。
教師の声が耳に流れ込み、独特のジーという音。影浦は寝返りをうつ以外はあまり動かない。
「はー……至福」
ストーカーまがいのことをしている自覚はあるが、気づかれていないだろうし、迷惑をかけたわけでもないのでぎりぎりセーフだろう。
にやにやしながらムービーを見ていたら、ふとあることに気が付いた。
「……ピース?」
だらんと机の下に垂れた影浦の手が、ピースサインを作っているのだ。
まさか寝ながらピースって、そんなゆかいなキャラじゃないだろうし。おまけに、腕で半分隠れた顔が、笑っているようにも見える。夢でも見ていたのか、あるいは。
気づいていた、のか。
「……いやいや、ナイナイ。それはない。ないはず、うん」
「何がだ?」
「いや影浦が気づいてたとかそういウボァ――――!!」
俺の背後にいつの間にか立っていた人物。さっきまでムービーの中でピースしていた、
影浦が。
立っていた。
いやもしかしたら俺の後ろに誰か立っててその人に質問してるとか
「おい、何逃げようとしてんだボケ」
「あっやっぱ俺だった!」
そんなわけなかった。
慌てて携帯をポケットに隠そうとしたら、素早く腕をつかまれ、あっという間に携帯を奪われた。耳からスポンスポンとイヤホンが抜けていく。
腰が抜けて立てないし、影浦はわざわざ携帯を上にあげて俺にとれないようにするし。ああ、オワタ。フォルダに鍵つけてても意味ないね、だってさっきまで見てたもの。
「うわ、なんだこりゃ。俺の写真やらムービーやらばっかじゃねーか」
「いやそれはその」
「まあ気づいてたけどな」
「ファッ!?」
ほらよ、と乱暴に携帯が返される。
慌ててキャッチしたら、シャツの襟をつかまれて持ち上げられた。片手で平均身長平均体重の俺を持ち上げるって腕力どんだけ。
というか、影浦の顔が近い。やめて心臓破裂する。
目をそらすと、視界の端で影浦はにやりと口をゆがめた。
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