幽霊少年の失態


俺は幽霊だ。

もちろん、実際に死んでいる幽霊なわけじゃない。足だってあるし頬だってつまめる。
そうじゃなくて、存在感が。

「あれ、みょうじは?」
「あーまたバックれたのかよアイツ、最悪だわ」

そんなことを言っている奴らのすぐ隣にいたりもする。

列に並んでいるのにプリントをもらえないことなんかしょっちゅうだし、提出物さえ存在感が薄くなるのか、出したはずの宿題を再提出させられるのもよくある(その後で教師が見つけて平謝りされるのももう慣れた)。
おまけに声も通らなくて小さいもんだから、発言したって無言ととられるし、もうどうしようもない。

そんな俺でも、一つだけいいことがある。



「……いいか、ここは中間に出すからな! しっかりノートとっておけよ!」

教師の言葉を聞き流しながら、俺の席のななめ前、盛大に寝落ちしている人を眺める。
教科書を立ててもいないしむしろ開いてもいないのに、教師はその人に注意はしない。理由は単純、怖いからだ。

同じクラスの影浦雅人という人物は、所属する組織でも恐れられているらしい。短気で好戦的、腕っぷしが強い。そりゃ誰も近づかねえよ。

「……みょうじは休みか」

ちらっと影浦を見て、教師がそうつぶやく。俺はしっかり席に座って授業を聞いているので、後で訂正に行かなくてはいけないが。

俺の特典はこれだ。存在感が幽霊級に薄いので、席で何をしていようとばれない、注目されない。

そう、たとえスマホで影浦の後姿をムービーで撮っていても、誰も反応しないのだ。

さすがに筆箱で隠してはいるが、ぱっと見ればすぐわかる、しかしこの存在感のおかげでばれないのである。

言ってて悲しくなってきたが、まあ、とにかくそれが唯一と言っていいくらいのいいこと。多分スパイとか潜入とかやっても気づかれない自信があるけど、そんな職業に就きたくはないので影浦の盗撮で我慢。

いわゆる一目惚れというやつで、もともとバイセクシャルだった俺は、影浦を一目見て恋に落ちた。存在感利用して陰から見つめて、あわよくばワンチャンありやで……とか思っていたが、今のところワンチャンもない。
まあいいけど。

授業終了のチャイムとともにムービーを止め、保存する。最近は音が出なくなるアプリとかがあるから便利だ。さすがに音が出るとばれる。

「じゃあ、今日はここまで、言っておいたところ、ちゃんと復習しろよ!」

おっと、先生が行ってしまう前に、出席してたことを言わなければ。

prev next
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -