□生まれ変わったら愛してね
それが終わったら、本棚の奥に押し込んだアルバムを取り出し、写真を一つ一つはがしていく。全て、米屋と俺が映っているものばかり。
米屋がくれたものばかり。
「…………」
拝借してきた父親の灰皿の上に写真を重ねる。そこにマッチで火をつけると、意外にもなかなか燃えない。箱の中のマッチすべてを使い、ようやく燃やしきることができた。
完全に火が消えたのを確認し、今度はクローゼットの中。本棚の本のいくつか。
ゴミ袋に服や本を全て詰め込んで、ついでだから普段掃除しないところも掃除する。
作業は深夜近くまで続いた。
きれいになった部屋を後にして、俺は家を出た。
日付が変わったからか、外を歩く人はほとんどいない。音楽を聴きながら、街灯の切れかかった道を一人歩いた。
「……はぁ」
憧れで済めばよかった。妬みでも嫉みでもよかった。どちらか一つならば。
どうしてよりによって、同性である彼に抱いた感情が愛情と憎悪の両方なのだろうか。
米屋が自分にないものを持っていることが、ずっとうらやましかった。それはいつか憎いという感情に変わった。自分と一緒にいてくれることが、とても嬉しかった。いつか好きだという感情に変わった。
もう抱えていくのに疲れてしまったし、仲が冷え切った両親の緩衝材になることにも疲れた。
だから終わってしまいたいのだ。
三門市の郊外、危険区域にすこしかぶるくらい。
放置された雑居ビルの屋上にひいひい言いながら登って、しばらく息を整えた。今日は満月だけど、雲がかかってしまって見えない。
フェンスを越えて立ってみると、意外と恐怖心はわかなかった。
明かりは遠くに見えて、俺のいるビルの近くは軒並み暗い。10階建てビルだし、さすがに運が良くても無理だよね。
「……ばいばい米屋、大好きだったよ」
ここで親の顔も名前も出てこない俺はきっと親不孝者なのだろう。別にそれでもかまわない。俺が親不孝なら向こうは子不孝だ、いつもいつもサンドバッグにしやがって。
それ、とその場でジャンプしてみたら、あっけなく俺の体は落ちて行った。
風切り音が耳元で響く中、叩きつけられる直前、誰かの声を聞いた気がした。
さよなら米屋、あの世で待つよ。生まれ変わったら愛してね。
お題:遠吠え
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