生まれ変わったら愛してね


米屋は、生まれついて纏ったオーラとでもいうのだろうか、とにかく明るい。

いつも周りに誰かがいて、誰からも頼られて、それに応え得る力を持っていながら、努力もしていて。

欠点と言えば頭が悪いところだけど、とにかく、凄いやつ。
ボーダーA級で、強くて、かっこよくて。

「みょうじ、聞ーて聞ーて。昨日秀次がさあ」
「うん、何?」

そんな彼と、どうして俺みたいな人間が話せるのかというと、ただ家が隣だというだけ。

ボーダーでもなく(トリオン器官が貧弱で落とされた)、人気者でもなく(友人なんて片手で足るくらいだ)、かっこよくもない(十人以下だろう)。

それでも米屋は、同い年ということでこうしてしょっちゅう遊びに来る。任務で忙しいのだから、ヒマなら家でゆっくりしていればいいのに。面白い話もできない、相槌を打つだけの人間の何が面白いんだろう。

「なあ、みょうじも今度遊びにいかね? 最近全然遊んでねーし、弾バカとか誘ってどっか行こーぜ」
「いいね。それじゃあ、ヒマになったら連絡してよ」
「ああ。ちゃんと待っとけよ?」
「うん」

そんな約束を交わしても、連絡が来ることはないだろう。過去何度も破られている。

三輪の面倒を見て、模擬戦をして、任務をこなして、あまりやらないけど学校の勉強をして。俺と遊ぶ時間なんてないのは知っている。

「……みょうじ?」
「うん、何?」
「いや、なんだか……おれといるの、面白くねえ? なんかいつもと違う気がする」

突然そんなことを言い出す米屋。
一瞬瞠目して、俺は吹き出した。

「なに彼氏が彼女に言うみたいなこと言ってんの。俺、昔からこうでしょ」
「と、思うじゃん? なんだか、いつもより元気ねーように見えるぜ」
「元気はつらつとした俺なんて見たい?」
「あー……怖いもの見たさでちょっと見てーかも。秀次の超絶笑顔見たいのとおんなじ理由で」
「俺は嫌だよ、それ両方」

そういうと、米屋は朗らかに笑う。

ちらりと時計を見ると、そろそろ5時になろうかという時間だった。この後に任務があると言っていたから、今くらいにうちを出なければ間に合うまい。

「米屋。時間いいの?」
「ん? うわ、もう出ないとダメじゃん! おれ、そろそろ行くわ」
「うん。お疲れさま」

立ちあがった米屋を見送るべく、俺も座っていたベッドから立ち上がる。今日は両親が留守だから、家は死んだように静かだった。

築十数年の軋む階段を降り、玄関まで歩く。いつもより少しだけ、短く感じた。

「それじゃあ、またなー。ぜってー連絡するから忘れんなよ」
「待ってる。さよなら、米屋」
「ああ、またな!」

手を振って、米屋は少し駆け足気味に去って行った。
ぐんぐん小さくなっていく後姿を見て、俺はドアを閉じた。再び階段を上り、自室へ戻る。米屋が座っていた床がまだ生ぬるかった。

机の中から紙を取り出し、ボールペンでがりがりと、机に跡がつくほど強く刻む。

『自分にも、両親にも絶望しました。もう耐えられません。
 最後に米屋、俺は、』

「…………」

チープな手紙の最後の文をどうするか悩んで、結局書かないことにした。

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