授業中に屋上で


あーさみい、とつぶやく影浦くんの鼻が、わずかに赤くなっている。
暖かいものと考えてみても、現在の装備は制服(下にヒートテック)である。さすがにヒートテックを渡すわけにはいかないし、学ランを渡しては僕が寒いし。

仕方ないので、よりかかる影浦くんを少しだけ離して、制服の前を広げる。
そこに再び彼を迎え入れ、制服で後ろから包んだ。とはいえ、さすがに行きが足りなくて、前は閉まっていないけど。
その状態で影浦くんのお腹に手を回して後ろから抱きしめると、ほんわりと暖かくなった。背中とお尻は相変わらず冷たいままだったけど。

されるがままだった影浦くんが、僕の手に自分の手を重ね、ぽつりとつぶやいた。

「……みょうじ、意外とやるな」
「え? 何が?」
「別に。ただ天然タラシこえーなってだけだ」
「こんなのできるの、影浦くんにくらいだよ」

僕は苦笑いした。

少し前から付き合い始めた恋人、それが影浦くんだ。
色々とまあ、ややこしい問題はあったのだけど、結局僕から告白して了承してくれた。
それからは、しょっちゅう授業を抜けさせられて、裏庭やら資料室やらで二人で過ごしている。

「寒い」

僕に寄りかかって、影浦くんがすり寄ってきた。あちこち無造作に跳ねた髪がくすぐったい。
その頭をなでたところで、ようやく彼が屋上を選んだ理由に思い当たった。

「影浦くん、くっつきたかったの?」
「…………」

動物が唸るような声を上げて、影浦くんが首をこちらに向ける。苦しくないのかなと疑問に思っていたら、後頭部に回った腕が僕の頭を引き寄せた。
がじ、と唇の端を噛まれる。

「痛いよ」
「うっせ。今のはお前が悪い」
「意味わかんないんですけど……」

うそつけ、と小さく呟いた影浦くんは、今度は下唇を噛んだ。噛み跡をなぞるように舌が舐めてきたので、それ以上になる前に体を引いて回避する。
不満げな顔の影浦くんから顔をそむける。寒かったはずの体が今は暑かった。

「んだよ、逃げんなよ。キスできねーだろうが」
「……学校でするのは嫌だからね」
「……キスだけにする」
「ダウト」

静かな攻防は、チャイムが鳴るまで延々続くことになったのだった。

お題:確かに恋だった


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