誰にでもスキだらけ


「先輩、だいじょうぶ!?」

本当はグラスホッパーを使ってでも追いかけたかったけど、それよりも先輩の安否のほうが気になって、すぐさま駆け寄った。押し付けられたせいか、少しだけ服の乱れはあったものの、それ以外に目立った傷はない。
みょうじ先輩は服を直しながら、片手をひらひら振った。

「大丈夫大丈夫。助かったわ、なんかいきなり迫られてさー」
「……金貸せとか言われてたけど、なんで?」
「なんでだっけ……。鼻息荒かったことしか覚えてない。まあ忘れてるくらいだから、そんな重要なことじゃないんじゃね?」
「重要なことじゃないのは確かだろうけどさあ、寄らせすぎ。おれ来なかったらどうするつもりだったのさ」
「んー、トリガー起動させるかな?」

何かあったときにすぐ逃げられるよう、常に換装体でいて、と何度も言っているのに、この人がそれを実行したことなんて片手で足りる。
ため息をついて、先輩に抱き付いた。

本当は抱きしめたいけど、身長が頭一つ以上違うから格好がつかない。
現に今も、まるで子供を慰めるように頭をなでられている。確かにおれは子供だけど、3つくらいしか離れていないのに。

ぶすくれてさらに抱き付く力を強めると、みょうじ先輩はどうとったのか、おれをかかえ込むように抱きしめ返した。

「緑川は心配性だなあ」
「心配にもなるよ。だって先輩隙だらけじゃん。もうちょっと警戒してよね」
「えー。でもそのセリフ緑川にそのまま返すぞ?」
「へ?」

胸にくっつけていた頭が上を向かされて、にこにこ人の好さそうな笑みを浮かべた先輩の顔が下りてくる。

小さくリップ音を立てて唇に柔らかいものが触れた。

「……え……」

ぼぼぼ、と顔が赤くなっていくのを感じた。

「もっとちゃんと警戒しないと、俺付け上がるよ?」

極めつけに、この言葉。騙されたとか恥ずかしいとか嬉しいとか、色々思うことはあったけど、結局言えたのはただ一言だけ。

「……先輩のばか!!」
「ぐふっ」

かっこつけたことを言う先輩のみぞおちに頭突きして、逃げ出した。

……隙だらけなのは、もしかして追いかけさせるための演技とか、言わないよね。

お題:確かに恋だった


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