誰にでもスキだらけ


頼まれたら断れないとか、押しに弱いとか。
先輩を形容する言葉はたくさんあるけど、その中でも一番あてはまると思うのがこれ、「隙だらけ」。

いつもとろとろ歩いて、後ろから膝かっくんされても避けられない。
キャッチセールスにあっけなくひっかかって、危うくツボを買わされそうになる。
明らかに怪しい逆ナンにひっかかっる。

あげていけばきりがないけどと、とにかくそのくらい、つけ入るスキだらけの人。
それがみょうじ先輩だ。


おれは対戦ブースから出て、ジュースでも買いに行こうかとふらふら歩いていた。
しかし、変なところを曲がってしまったのか、いつの間にか人どおりの少ない、薄暗い通路に出てしまっていた。

たぶん緊急時に使うようなものなんだろうけど、用はないし、とっとと元の場所へ戻ろうとした、そのとき。
ふいに、耳に入ってきた声があった。

「……だろ、……してくれよ」
「えーっと……、……」
「……!! ふざけんな、……!」

みょうじ先輩の声と、後は知らない誰かの声。言い争っているようにも聞こえる。

急いでそっちに向かったら、壁に押し付けられて困った顔をする先輩と、先輩のことを押し付け、なんだかやたら迫っている男がいた。
近づくにつれ、不明瞭だった会話がはっきりしてくる。予想とたがわず、彼はまたおかしなヤツに絡まれているようだった。

「いいだろ、ちょっとくらい金貸してくれよ!」
「いやごめん、なんで? ……ん?」

みょうじ先輩が男ごしにおれに気づいて、ぱっと笑顔になる。笑顔にいらついたのか拳を振り上げる男を無視し、のんきに手を振った。

「おーい、緑川ー」
「はっ!? 緑川!?」

男はその言葉に、慌てておれを振り向いた。
自分でもわかるくらい怖い顔でスコーピオンを構えていたからか、その薄汚い顔が引きつる。
コマ切れにしてやる、と意気込んだのもつかの間、ゴキブリもびっくりな速度で男は逃げ出した。ゴキブリのほうがまだマシだ、あっちは人に向かってくる勇気がある。

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