□幸せそうに、ほころぶ笑顔
付き合ってくれ、と言ってきたのは、今でも信じられないけど実は京介のほうだ。
結構ベタだけど、放課後に呼び止められ、屋上に付いていったら、告白された。
色白の頬がリンゴみたいに真っ赤になって、よほど緊張していたのか声は裏返っていたし、体は小刻みに震えていた。
これが、玉狛独自のトリガーを使いこなして、最強とまで称される戦力なのかと思ったら、なんだか信じられなかった。
しばらく固まっていたら、顔真っ赤の状態で屋上から飛び降りようとした彼を全力で止めたのも、今ではいい思い出である。
日常生活でリアルに「命大事に」と叫ぶとは考えもしなかったが。
まあそんなこんなで、京介と付き合うことになったのが、今から大体一か月くらい前。
「なまえさん」
「お、京介」
カバンに教科書やらをしまっていたら、教室の入り口で京介が俺を呼んだ。
クラスに残っていた女子がにわかに色気づく。おいそこ、まだ男子いるのにスカート上げんな。腹見えてるぞ。
リップを塗ったり髪をいじったり忙しい女子たちを横目に、京介の元へ急ぐ。
「ごめん京介、俺ちょっと用事あるから、先帰ってて」
「いえ、それならなまえさんのこと待ってます」
「いやマジで遅くなるから、ゴメン。また明日」
背中を押して、京介を押し出す。
本当は俺だって一緒に帰りたいけど、今日はダメだ。
不満そう(無表情だけど)な京介を無理やり隣の教室の前まで追いやって、俺は再び教室に戻った。
実は、朝来て、机の中に何かが入っているのを見つけた。
何も書いていない白い封筒だったから、不幸の手紙だろうかと一瞬考えたのだが、中を見てみたら、今時珍しいラブレターだった。
内容はまあありきたりだけど、日時と場所が明記されていたので、一応行くことにした。
受ける気はないとはいえ、勇気を出して来てくれるなら、こちらもきちんと向き合うのが筋だと思ったからである。
だけど、さすがに京介には言いづらいので、黙って終わらせたい。
カバンを肩にかけて、指定された場所に急ぐ。屋上とはまた、懐かしいところに。
ドアを開けると、そわそわと落ち着かなさそうな女子生徒がいる。
「おーい」
「あっ……! き、来てくれたんだ」
ボブカットの茶髪を揺らしながら、その子は振り向いた。きれいにメイクされた目元や、ぷるんとした唇は確かにかわいらしい。けどごめん、俺黒髪が好きなんだ。
手紙を差し出して本人か確認すると、頬をピンクに染めながら頷く。そして、決意したように俺を見上げながら、声を張り上げた。
「みょうじくんと、ずっと一緒にいたいの。私と、恋人になってください!」
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