恐怖でこわばった体


「ん、あれヒュース。どうしたの」

夜、自室で大学の課題をやっていたら、ヒュースがやってきた。ちなみに監視役ということで(名目上の)、俺の部屋はヒュースと同じく地下にある。
ヒュースはしばらく黙ったままだったが、やがて俺を見上げて言った。

「……みょうじが悪い」
「え、何が?」
「……昼間のことを、忘れたとは言わせん」
「昼間? ……ああ、あれね」

ホラーDVD見せまくったやつね。

「……え、じゃあ何。怖くて寝れないから一緒に寝て(はぁと)とかそういうごぶっ」
「うるさい黙れ! もとはと言えばお前がウソをつくからだ!」

頭を殴られる。
コイツ最近、俺に対してマジで遠慮がない。

まあ、怖がって頼る程度には信頼されているということだろう。昼間のは俺に責任があるし、一緒に寝るくらいなら構わない。

「よしよしわかったわかった。こっちおいで」
「おい、オレは別に……うわっ!?」

ヒュースの体を抱き上げて、ベッドにもろとも倒れこむ。

壁側にヒュースを寝かせ、俺は空間に背を向けて、腕をヒュースの首あたりにいれてやった。近くなった距離に、ヒュースが顔をしかめる。だけど少しだけ頬が赤らんでいた。

「おい、この腕はなんだ」
「んー、腕枕? そしたら横向きで寝れるだろ」
「必要ない。今までの寝方で十分だ」
「でもうつぶせってさ、背中に何か乗ったらって思うと不安に」
「オレをからかうのもいい加減にしろ!」
「いでででで」

頬をこれでもかとつねられた。さすがにからかっているのに気づいたか。

「あークソ痛い……。もとはと言えばヒュースが怖がるからじゃん」
「……それは……」
「悪かったって。もう寝よう、はいおやすみ」

電気を消すと、窓がない部屋は真っ暗になる。
再び寝転がると、ヒュースの目がこちらを見つめていた。明かりがなくても、きれいな目だ。

「ここにいるから平気だって。寝ちゃえよ」
「……ああ。…………」
「ん?」

なにか小さく、ヒュースがつぶやく。
聞こえなかったので耳を近づけたら、本当に小さな小さな声で、

「ありがとう」

と、俺に囁いた。

「…………」

迅の未来予知の意味が、ようやく分かった。


俺、生殺しだコレ。

安心したような表情で目を閉じているヒュースを見て、心底昼間の自分を恨んだ。

お題:immorality


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