□恐怖でこわばった体
「ん、あれヒュース。どうしたの」
夜、自室で大学の課題をやっていたら、ヒュースがやってきた。ちなみに監視役ということで(名目上の)、俺の部屋はヒュースと同じく地下にある。
ヒュースはしばらく黙ったままだったが、やがて俺を見上げて言った。
「……みょうじが悪い」
「え、何が?」
「……昼間のことを、忘れたとは言わせん」
「昼間? ……ああ、あれね」
ホラーDVD見せまくったやつね。
「……え、じゃあ何。怖くて寝れないから一緒に寝て(はぁと)とかそういうごぶっ」
「うるさい黙れ! もとはと言えばお前がウソをつくからだ!」
頭を殴られる。
コイツ最近、俺に対してマジで遠慮がない。
まあ、怖がって頼る程度には信頼されているということだろう。昼間のは俺に責任があるし、一緒に寝るくらいなら構わない。
「よしよしわかったわかった。こっちおいで」
「おい、オレは別に……うわっ!?」
ヒュースの体を抱き上げて、ベッドにもろとも倒れこむ。
壁側にヒュースを寝かせ、俺は空間に背を向けて、腕をヒュースの首あたりにいれてやった。近くなった距離に、ヒュースが顔をしかめる。だけど少しだけ頬が赤らんでいた。
「おい、この腕はなんだ」
「んー、腕枕? そしたら横向きで寝れるだろ」
「必要ない。今までの寝方で十分だ」
「でもうつぶせってさ、背中に何か乗ったらって思うと不安に」
「オレをからかうのもいい加減にしろ!」
「いでででで」
頬をこれでもかとつねられた。さすがにからかっているのに気づいたか。
「あークソ痛い……。もとはと言えばヒュースが怖がるからじゃん」
「……それは……」
「悪かったって。もう寝よう、はいおやすみ」
電気を消すと、窓がない部屋は真っ暗になる。
再び寝転がると、ヒュースの目がこちらを見つめていた。明かりがなくても、きれいな目だ。
「ここにいるから平気だって。寝ちゃえよ」
「……ああ。…………」
「ん?」
なにか小さく、ヒュースがつぶやく。
聞こえなかったので耳を近づけたら、本当に小さな小さな声で、
「ありがとう」
と、俺に囁いた。
「…………」
迅の未来予知の意味が、ようやく分かった。
俺、生殺しだコレ。
安心したような表情で目を閉じているヒュースを見て、心底昼間の自分を恨んだ。
お題:immorality
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