泣いて震える肩


三輪が体を起こす。
そこでようやく、自分が泣いていたことに気が付いたらしい。

服の袖でぬぐうのをじっと見守っていると、彼は気まずそうに小さな声で「すまない」とつぶやいた。謝ることなんて何もないのに。

服の袖を弱々しく引っ張られたので、前よりも細くなったように思える体を抱きしめる。
痛いくらい抱きしめられて息が詰まったが、我慢して背中をさすった。

がたがたと細かく震える体。やっぱりその夢を見ていたらしい。

「近界民が、」
「うん」

呪いを吐くように敵の名を呼ぶ。

三輪の執念は全ての近界民を殺すまでは収まらないだろうと、米屋が言っていた。それだけ彼女の、姉の存在は大きかったのだろう。

「殺す、殺してやる、近界民め……!」
「うん。三輪ならできるよ」

トリオン兵を壊して、近界民たちを殺して。

戦争を無くしてしまうには全て殺してしまうのが一番手っ取り早い。争いごとの種を一つ消したところで、所詮はその場しのぎ。種を植える土ごと消してしまったらいい。

そして、それで三輪がすくわれるのなら、それがいい。

「お前ならきっとできるよ」

近界民おれも、きっとそれが一番幸せだ。

戦争のない場所を求めて来たけれど、どうせどの世界にも争い事はあって。

もうそれを見るのにも参加するのにも疲れてしまったから、お前が俺を殺してくれるのなら救われる。
お前も近界民を消して救われる。全て丸く収まる。

三輪のお姉さんはきれいな黒髪をしていたらしい。

抱き締めた三輪の、震える肩にかかる自分の髪を、俺は鬱陶しい思いで見つめた。
こんなに伸ばしたって、俺じゃ、彼女の代わりにはなれないというのに。

お題:immorality


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