ちらり、うかがう目


ぶすくれている。わかりやすく。

つんと尖った唇を指でつまむと、佐鳥はあきらめたように俺にもたれかかってきた。

「もー、ほんとやだぁ。なんでみょうじさん、そんな余裕あんの……」
「なんでって言われてもなあ」

正直言うなら、余裕なわけじゃなくて結構いっぱいいっぱいだ。

健全な若者なのだからそういう欲求がないわけじゃないけど、それよりなにより、佐鳥が好きなだけ。頑張っている佐鳥を大事にしたいだけ。

おそらく彼が思うより、俺は佐鳥のことが大好きだろう。
それを言うと調子に乗るだろうから言うなと、時枝と木虎からストップが来ているくらいには。

嵐山は仲がいいなで済ませるから除外。あいつ多分、未だに俺と佐鳥が付き合っていることすら知らない。

しばらく俺に抱き付いていた佐鳥が、顔を起こす。何やら決意した顔だ。
一体何事かな。

「……みょうじさん」
「ん?」
「好きです」
「うん。俺も好きだよ、佐鳥のこと」
「俺はもっともっと大好きです」
「水掛け論だなあ」
「だって、態度で勝てないなら言葉で勝つしかないじゃないですか!」
「え、いつから勝ち負けの話になったの?」
「だって、みょうじさんが嫉妬したら、そんなの必要ないくらい佐鳥は好きですよって言いたいのに、無理だし! イケメン佐鳥見せたかったのに!」

突然、半泣きでそう怒る佐鳥。

きゅん、と心臓に何か刺さった気がした。

「あーもう! かわいいなあ!」
「わぶぅっ!」

思いっきり佐鳥を抱きしめて、ムツゴロウさんばりに頭をなでて頬ずりをする。

イケメン佐鳥でなくてもいい。それもおそらくかわいいのだろうけど、それよりも、俺の些細な言動をいちいちうかがって、一喜一憂している佐鳥のほうがずっとかわいらしい。

気が済むまで佐鳥を愛でたら、ようやく体を放した。
いつもより整っていた髪の毛も、新品らしい服もよれよれだけど、それもかわいくて仕方がない。

「な、なにすんですか、いきなり……」
「あ、ごめん、思わず。……ね、佐鳥」
「はい?」
「大好きだよ」

額に唇を落とすと、じわじわと佐鳥の顔が赤く染まっていく。
それを見て思わず笑うと、笑われたことに気が付いた佐鳥が吠える。

「っだから、そういうところが反則なんですって!」
「あははは」

それを言うなら、佐鳥のかわいさも反則だろうに。


お題:immorality


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