放課後の教室で


プリントラッシュが続いて、数日。
みんながいなくなった教室で、佐鳥はいつも同じようなことを言う。

すきだよ、だいすきだよ、一緒にいたい、おれが守ってあげるよ。

そのたびに俺は聞こえなかったふりをして、何度も繰り返される告白じみた言葉をなかったことにしてゴミ箱に捨てている。
俺みたいな守られる一般市民と違って、佐鳥はボーダーの顔でA級で強くて。男で。
告白なんてするはずないのに俺の耳は都合よく聞き間違えるから。

「……ねえ、ちょっと、みょうじってば! 佐鳥がいますよー!」
「、うお、何」

ぼうっとしていた。
プリントはいつの間にか俺の前に戻ってきている。佐鳥が解いたところを確認すると、計算間違いもなく確かめ算も完璧だった。
ようやくプリントラッシュに幕が引かれたのだ。

「うん、オーケー。お疲れさん」
「やったー! はーもう疲れた、この後夜任務だよやる気出ないー!」
「もともとテスト赤点突破なのが悪いんだろ。えーとクリップは」

まとめる用のクリップを探すと、筆箱の下に埋もれていた。取ろうと手を伸ばしたら、その手を佐鳥が机に縫い付ける。
シャーペンを握っていたからか少し汗ばんだその手を、なぜか振り払うことができなかった。

「……佐鳥、手」
「ねえ、好きだよ、みょうじ」
「これ提出しなきゃだろ。そのために付き合ったんだから」
「ごまかさないで」
「さと、」
「こっち見てってば! ねえ、みょうじ!」

大声をあげる佐鳥に肩が揺れる。
つかまれた手が佐鳥の両手に包まれて、引っ張られる。
勢いで前のめりになったら、その瞬間にすべての時間がとまった。

すぐ目の前に佐鳥のブサイクな面がある。
なんでこんなに近いんだと考えて、そうかキスしているからだと思い出した。

唇どうしをくっつけたまま、二人して固まる。
時間が動き出してもなおそのままだったので、俺から体を放すことにした。手は相変わらず、つかまれたままだったけど。

「……佐鳥、唇ガッサガサだな」
「そこ!? 佐鳥のファーストキスだよ!?」
「いや、本気でびびった。リップクリーム塗っといた方がいいよ」
「……帰りに買うよ……ぐすっ」

みょうじのばか、泣きそうな顔の佐鳥が手を放す。その手にプリントを持たせてやって、ポケットの中のものを取り出した。そして、教室のドアまで歩き出した佐鳥の背中に声をかける。

「なあ、佐鳥って俺のこと好きなの?」

肩越しに振り返った彼の眼にはうっすら涙がたまっている。耳も首も真っ赤だった。

「好きじゃなかったら、キスとか告白とか、そんなんするワケないじゃん!」
「……うん」

身構えた佐鳥にかまわず近づいて、学ランの襟をつかんで引き寄せた。

うわあ、と間抜けな声をもらした口は俺のでふさいだ。

ぎゅっと唇を押し付けてから、顔を離す。爆発するんじゃないかというくらい顔を赤く染めた佐鳥と目が合って、なんだかこちらまで恥ずかしくなってしまう。

「リップクリーム、俺のだけど、よければ」
「……あ、ありが、とう?」
「なんで疑問形。……早く提出して来いよ、待ってるから」

ぽん、と背中を押すと、佐鳥はロボットのようにぎくしゃく歩んで、教室の外に出た途端、奇声をあげて走り去った。誰かに注意されるような声を聞きながら、俺は自分の席に戻り、鞄に顔を沈めた。
きっと今は誰にも見せられないくらい、真っ赤だろうから。

お題:確かに恋だった


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