虫よけ


本部でいつもの通り、射撃の訓練場に向かっていた時のこと。
向かい側から歩いてくる人物を見て、俺は目を見開いた。

「風間さん!?」
「ん、ああ。お疲れ、みょうじ」
「お、お疲れ様です。じゃなくて、どうしたんですか、スーツなんか着て」

A級3位風間隊隊長、風間さん。
小柄かつ高性能という、まるで携帯の新機種のようなふれこみの人だ。

いつもの隊服ではなく、かといって私服でもない。風間さんはスーツを着ていた。
濃紺のスーツに、質感のよさそうなシルバーのネクタイ。胸元のピンもかっこいい。

ビジネススーツではなく、パーティや結婚式に出るような出で立ちだ。

「ああ。親戚が結婚するそうでな。さっきまで任務だったから、今から行くんだ」
「へえ、おめでとうございます。……息子とかと間違えられそうですね」
「ほう?」
「いででででっごめんなさいウソです! 超かっこいいです!」

ぐりぐりと、つま先をかかとでにじられる。まだ換装してないのにひどい。

すっきりしたのか風間さんの足が離れていき、俺は負傷したつま先を涙目でさすった。
それにしても、スーツだと随分雰囲気が変わる。尖った空気は消えていないけれど、そこに品のようなものが加わって、いつもよりも大きくなった気がする。

これだけ格好いいのだから、会場でもしかして、他の女に言い寄られたりして。

そこまで考えて、いらっとした。まだ見ぬ誰かに。
というか、いるかもわからない人間に。

我ながら狭量だとは思うが、それだけ風間さんが魅力的なのだから仕方がない。
内心むっとしつつ、風間さんに話しかける。

「……風間さん、二次会とか行くんですか?」
「いや。明日は1限からだから、式と披露宴だけ見て帰るつもりだ」
「そうなんですか」
「それがどうかしたか?」
「いえ、ちょっと」

きょろきょろとあたりを見回す。人は見当たらない。

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