寝言は寝て言え



「え、えっと、……励まし?」
『励まし? ……あー……』

何やら思い当たることがあるらしい。気まずそうに唸る出水と、事情が分からない俺。

すこしそんな状態が続き、ぽつりと、出水がつぶやいた。

『……先輩、おれ、ちょっと遠くに行くことになったんです』
「遠く? ……村上にボーダー関連かって聞いたら、微妙に濁してたし……まあ、なんか危険なことなんだ?」

はい、と少し心細げな出水の声。
そんな様子を見たことがなかったから、意外な気がした。つまり、その準備か何かで学校に来なくなったということか。

そうだとしたら、忙しいところにわざわざかけてしまったのかもしれない。

「そっか。まあちょっと気になっただけだから。忙しそうだし、切った方がいいか?」
『は!? もう切っちゃうんですか!?』
「え、だって忙しいだろ?」
『い、忙しいけど……でも先輩と話す時間ぐらいありますよ! てかもっと話したいです!』

おおう、すさまじく食い下がってくる。

「長くかかるのか?」
『わかんないです。長いかもだし、短いかもだし。……戻って来られるかもわからないし』
「…………」

それほど危険が及ぶのか。
俺はボーダーではないから、何をするのかなんて検討がつかない。だけど、17歳の高校生が死を覚悟しなければならないほどのことが進んでいるのは分かった。

俺が黙っていると、みょうじ先輩、と真剣な出水の声が聞こえてきた。

「何?」
『おれ、戻ってくるつもりではありますけど……どうなるかはわかんないです。だけど、もし無事に帰ってきたら、……俺と付き合ってくれませんか』

今まで聞いたことがない声だった。

いつもの軽口とは違う、本気の告白。男に興味がないはずの俺でも、思わずくらりとくるような。

俺の答えは、すでに決まっていた。


「え、寝言は寝て言えよ」

『えええええ!? 今そういう流れじゃねーだろ!! ここは待っててくれるパターンでしょ、フツー!!』
「バカかお前、『もし』がつくような約束なんか、俺が受けるわけないだろ」
『ぐ、ぐぬぬ……』

悔しそうな出水に、思わず笑った。

「1年は待たないけど、お前がそこから帰ってくるまでは待っててやるよ。そしたらもう一回な」
『え、みょうじ先輩それ、どういう』
「んじゃ、俺これから勉強するから。ちゃんと帰ってこいよ。またな」

先輩、と言いかけた電話を無理やり黙らせる。
ついでに電源を切り、枕の下に押し込んだ。大きく息を吐き、机に向かう。

「よし、頑張るか」

誰かさんを養うために。



「うわっ着信履歴100件ってキモッ!!」


こう、片方が塩対応で片方が好き好きって感じで、実は両想いっていう展開が好きです。
ワンパターンだね!

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