寝言は寝て言え


最近、出水が教室に来ない。

それどころか、学校の中でも見当たらない。

何かあったのか聞こうにも、国近や当真も見当たらないのだ。
俺も説明会や受験のための勉強で徐々に忙しくなってきたから、しばらくするまで気が付かなかった。だが、いったん意識してみれば、あれほど鬱陶しくやってきたはずの出水が来なくなると、なんとはなしに、こう。

「寂しいのか?」
「ばっ、ちが、そんなんじゃないけどさ!」
「はっはっは」

朗らかに笑うのは村上。同じクラスだがさほど接点もなかった人物だ。
俺が話しかけたらいきなりさっきのセリフである。お見通しってか。
頭をかいて、村上の机の前に膝をつき、顎を乗せる。腹立つくらい精悍な顔を見上げ、ため息をついた。

「……ぶっちゃけそうです」
「あれだけ毎日来てたからな。……ただ、理由は言えないんだ。悪いな」
「ボーダーのなんちゃら?」
「ああ。……気になるなら、出水に直接聞いてみたらどうだ?」

それができたらいいのだけれど、俺は出水の連絡先を知らない。
それを言うと村上はぽかんとしていたが、すぐに携帯を何やら操作し、数分後には出水の携帯番号を突き止めてくれた。書き付けた紙をありがたくもらって、学校が終わったら電話することにした。

「ごめん、ありがとう。今度なんか奢るわ」
「気にするな。励ましてやってくれ」
「? ああ、わかった」

村上の言葉の意味がわからなかったが、とりあえず頷いておく。励ますような何かがあるのだろうか。


授業が終わるのを待って、俺はいつも行く図書館には足を向けずに、まっすぐ家に戻った。
そして着替えもせず、すぐもらった電話番号に電話し、出水が出るのを待つ。しばらく相手を呼ぶ音がして、ややあってからつながる音がした。

『はい、もしもし?』
「あ、出水? 俺だけど」

『はっ……みょうじ先輩!?』

がたがたと向こうでなにやら騒がしい音。
かすかに国近の声が聞こえた気がしたが、すぐ聞こえなくなる。しばらくすると、息を切らした出水がふたたび電話口に出た。

『先輩、なんで俺の番号……!!』
「あー、村上がなんか、周りに呼びかけてくれたみたいで。悪いな、勝手に」
『いえ、全然いいっすけど……。どうしたんすか、いきなり。何か用事あったとか?』
「いや……なんかこれといって、アレなんだけど……」

今になって思ったけど、マジで用事がない。

ただ最近来ないけどどうしたって聞くのも、なんだか俺が寂しがっていたみたいで悔しいし。
何を言えばいいのかと冷や汗が流れ出したところで、ふと、村上に言われたことを思いだした。

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