なみだあめの夜


バムスターの眼をスコーピオンで両断し、降ってきたガレキはシールドで受け止める。

民間人のいないほうへと誘導して戦ってはいるけど、さすがに数が多い。すでに俺の右腕と左足はなくて、片足でぴょんぴょん跳ねながら戦っている。

「あーくっそ、邪魔だコイツら!」

モールクローでさらにもう一体。
もう終わりが見えてきてほしいのだが、雨で視界が悪いことに加え、正直それを確認する余裕もないのだ。
応援は今向かっていると通信室のオペレーターが言っていたが、まだたどり着かないらしい。

ふと、カサカサと効果音をつけたいような動きで、モールモッドがビルの平面を滑るように走り、こちらへと向かってくるのに気が付いた。
慌ててシールドを展開するも、トリオンが足りなかったのか、固いブレードで斬り裂かれてしまった。残った右足を落とされ、その場に倒れこむ。

「……あー……これはマズイかも……」

モールモッドの腹部をめがけ、地面から壁へモールクローを放つ。あたりはしたものの目は壊れず、こちらへ向かってきた。
緊急脱出するかな、と文言を口にしようとしたら、突然、モールモッドが真っ二つに裂けた。無論、目も含めて。

「……へ?」
「ようみょうじ、遅くなったな」
「迅!? お前遅いよ! タンスの角に小指ぶつけろ!」
「来るなりそれ!? ひどくない!?」

ショックを受けたような顔をしながら、助っ人・迅は残りの近界民を片づけていく。
俺もアステロイドで援護して、どうにか全ての近界民を倒すことができた。


壊れた建物から人を助けたり、避難場所に民間人を誘導したり、トリオン兵の残骸を片づけたり。
続けて応援に来た隊と協力して作業をしていたら、全てが終わった時にはすでに夜中になっていた。

雨はまだ降り続けていて、アパートの部屋のすぐ前に来てから俺は換装体を解いた。

「それで、なんで迅までここに来てんのという」
「いいじゃん。せっかく会えたからおれ今日泊まってくわ」
「えっ決定事項? まあいいけど、」

散らかってるぞ、と言おうとしたところで、後ろから迅に抱きしめられた。やたら重いドアが閉じる音が大きく聞こえて、時間が止まったような錯覚すら覚える。

「……迅?」
「…………」

いつもチャラ男一歩手前の発言をする迅は、黙ったままだった。

無理に何か言わせるのもと思い、黙ったまま抱きしめられていたら、ぽつりと迅がつぶやいた。

「……みょうじが」
「うん?」
「……近界民に殺されるって」
「……サイドエフェクト?」

頷くのが伝わってくる。

未来は不確定だと迅はよく言うから、まあ俺があのまま寝入っていたら、死んでいただろうなと思う。たまたま迅のことを考えて起きていたから、戦闘に向かって迅も間に合ったのだろうけど。

迅と付き合うようになって、こいつが見た目ほど自信家ではないことはすぐわかった。
嫉妬しやすいしすぐネガティブになるし、不安がるし。
俺の未来で何かよくないことが起こるのがわかると、面白いくらいに慌てる。
笑えないことも多いのだが。

「みょうじ、おれのこと、置いていかないでね。……絶対に」
「善処する。……お前こそ勝手にいなくなるなよ」
「……うん」


誰と重ねているのか、とは聞けなかった。聞いたところで意味がないことだから。

迅の頭をなでながら、何を思い出したのか、じわじわと背中にしみる水分を感じていた。

お題:確かに恋だった


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