なみだあめの夜


しとしとと、細かい雨が窓をたたいて流れていく。

今日は朝からずっと、この鬱陶しい雨が降り続いている。
せっかくの休みだというのに、雨のせいで外に出る気もしなくて、大学の課題とネットサーフィンで一日を過ごしてしまった。

「……洗濯物、かわかないな」

小さいアパートには洗濯機が一つ外についているだけで、乾燥機なんてしゃれたものはない。ボーダーで給料が出るとはいえ、電化製品を買うほど懐に余裕はないし。

部屋中に張り巡らされたロープに引っかかった洗濯物。そしてその匂いに、なんとはななしに憂鬱になった。
原因はそれだけではないのだが。

充電器にささったままの携帯を取る。
メールが何件かと、大学の友人からのラインがいくつか。全て無視して、数週間前でトークが終了している人物のものを呼び出す。

迅悠一、と記された彼のトークは、最後が「ちょっと出かけてくるね」だ。そのちょっと、が数週間なわけだが。

暗躍が趣味と言った時は、ああコイツまだ中学二年生のまんまなんだな、と生暖かい視線で見つめたものだが、実際にその働きを目にすると、そんなことも言えなくなった。
未来を予知できるというサイドエフェクトを持ち、かつ黒トリガーを持つ迅は、俺なんかが思うよりもずっと色々なことを考え、そして抱えていたのだ。

頭の回転が速くて、腕っぷしも強くて、淀んだ空気もうまく流す。そんな人間が重用されないわけもなくて、迅は時たま、一言だけ残して居なくなる。

「だからって、彼氏何週間も放置するか、普通……」

ため息をついて、携帯を放り投げる。鞄にぶつかって鈍い音が部屋に響いた。

迅は忙しい。

会えないことにもそろそろ慣れてしまったが、それでも寂しいものは寂しい。
玉狛に行けば会えるかもと思うのだが、何が嫌だって烏丸に会うのが嫌だ。変にカンが鋭い上、あの性格だから、迅とのことがバレたら、絶対からかってくる。
降り続く雨を眺めて、いっそもう寝てしまおうかと横になった途端、最近聞きなれてしまった音が響いた。

『緊急警報、緊急警報、市街地に門が発生しました』

「うげ」

最近、警戒区域外、市街地で門が開く件が増えている。

エンジニアが全力で対応しているし、ボーダー隊員も全力で駆けつけるのだが、やはり後手に回ったせいで被害が大きくなることもある。

「今の音、結構近かったな」

数にもよるけど、俺が行けば、応援が来るまで抑えられるか。
迅と会えなくてムシャクシャするし、トリオン兵に相手になってもらおう。

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