知ってるよ、ほんとの君


「みょうじ」
「ん? 二宮」

ボーダー本部。

トリガーの点検を待つ間、ぶらぶらとあちこちを歩いていたら、二宮隊の4人と鉢合わせた。
どうやら彼らも点検中らしい。犬飼は二宮に見えないようにピースしてきたが無視する。

「今ヒマか?」
「特に用事はないけど。どうかしたか?」
「この間の新刊について少しな。お前たちは待機してろ。点検が終わったら連絡する」
「えーっ、俺もいちゃダメですか?」

辻と鳩原は素直にはけていったが、犬飼は不満げに口をとがらせる。
二宮はそんな部下を見て少し困ったように(はた目はイラついたようにしか見えないが)眉をしかめ、俺に聞く。

「いいのか? 言っても」
「ああ。どうせ読まないだろ」
「えっ、なんかバカにされた気がする。みょうじさん俺のことバカだと思ってるでしょ」
「違うのか?」
「……やればできる子だもん」

18歳の男子高校生が「もん」をつけても気持ち悪いだけなのだが、とりあえず黙っておいた。
二宮が不思議そうに俺達を見る。接点がないのに仲がよさそうだとか思っているんだろうが、大半はお前のせいだ。いや、まあいいか。

立って話すのもということで、ひとまずロビーへ向かうことにした。

「で、新刊がなんだって?」
「ああ。最後のトリック部分で思ったんだが、ここは、前のシリーズで出てきた山口が使ったものと同じだよな?」

二宮が鞄から出してきたのは、俺が最近出したばかりの本。推理小説だが、それなりの評価をもらっている。それにしても、それに気が付くとは。

「よく気づいたな。ついでに言うと最後のモブのセリフは山口のつもりだ」
「やっぱりか。地名なんかも似ている点が多いと思ったが……。スピンオフにもなっているんだな」
「そう」

俺は大学生兼ボーダー兼、小説家でもある。そこそこ本を出させてもらって、そこそこの人気をもらっている。けど知っている人は少ない。
犬飼ももちろん知らなかったようで、話についていけないらしい。

その後もひとしきり今度の新作の話や、映画化が決定しそうな話について話した。話が途切れた頃を見計らい、二宮が切り出す。

「ところで、お前たちはそんなに仲がよかったのか?」
「ああ、それは」
「たまたま外で会って、意気投合したんですよー。ね、みょうじさん」

食い気味にそう言って、犬飼は俺の方を見てにっこりとほほ笑む。
喋るな、の意だ。暴力がなくなったのだから言ってもいいのだが、俺はそうだなと同意した。
二宮は少し不思議そうな顔をしたが、あまり追及しなかった。

「そうか。犬飼、あまりみょうじに迷惑をかけるなよ。みょうじも犬飼が何か粗相をしたら俺に言え」
「やだな、二宮さん。俺いい子ですよ、ねえ?」
「黙秘」
「ちょっとお!!」

俺たちのやり取りに、二宮が少しだけ笑った。
面白いくらいに固まる犬飼を横目で見つつ、立ち上がった二宮につられて俺も立ち上がる。

「なんにせよ、みょうじなら安心だ。お前はだいぶ隊に入り浸ってるからな。たまには外の人間と接するのもいいだろう」
「……そうですね。ってことでみょうじさん、今後ともどうぞヨロシク!」

傷ついたような表情から、一瞬で元通りの笑顔。さすがだと思ってから、少しだけ犬飼に同情した。

本人が悪気なく言っているとはいえ、犬飼にとっては隊ではなく二宮のそばにいるのが目的なのだから。

「二宮、お前も大概だと思うぞ」
「どういう意味だ?」

人の心がわからないのは。


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