□ロマンチックにはほど遠い
「みょうじさん、今日家行ってもいいでしょ?」
犬飼がこう持ち掛けてくる日は、二宮が、犬飼に期待させるような行動をとった日だ。
例えば褒めたり、機嫌がよくて何か奢ったり。酷い時には触ったから、目があったからなんて理由で犬飼は俺の家に来る。
親は滅多に家に帰ってこないので、そのため大学生の身分で一軒家に一人暮らしという生活が実現している。
そのこともまあ、この状況に拍車をかけているのだろうけど。
いつも通り腕と口をふさがれて、犬飼は目を隠して、二宮の名前を呼び。
不毛な行為を終えた後は、必ずといっていいほど犬飼による二宮自慢が始まる。
「二宮さんがさー、『お前の腕は信用してる』ってさ。腕だけですかって思わず返しちゃったんだけどさ、二宮さんのそういう言葉って超レアじゃん? だからレコーダーとかいっつも回しとこっかなって。みょうじさんどう思う?」
「……ポケットにでも入れておけばいいんじゃないか」
ベッドの上に全裸のままあぐらをかいて、夢見る乙女のような表情で語る犬飼。
俺はレポートの締め切りが近いので、乱れただけの服をさっさと整え、ベッド横のノートパソコンを立ち上げた。今期は全部S取りたいからな。
その後もべらべらと喋る犬飼と、生返事をしながらレポートをする俺。これが先ほどまで体をつなげていた同士なのかと考えるとげんなりする。
論文を引きながら書いては消しを繰り返していると、突然肩に痛みが走る。
「ねえ、ちゃんと聞いてんの?」
「……あー……」
「聞けよ、あんた二宮さんの代わりなんだから」
先ほどまでの笑顔はどこにいったのか、肩に爪を食い込ませる犬飼。
いまだにコイツのスイッチがどこだかわからない。ていうかまだ全裸だし。
むかつくという言葉とともに、犬飼が俺の首を絞める。
死なない程度に加減されているとはいえ、無論気持ちのいいものではない。跡がつくから、またタートルネックを着なくてはいけないし。
容赦のないそれに意識を半ば飛ばしながら、恋愛なんか、楽しいのは当人だけで、巻き込まれる側のロマンスなんて期待できないと再確認した。
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