すべてのはじまり


「みょうじさんって、二宮さんと仲いいんですねえ」

その時点で、何かおかしな空気は察していた。

ボーダーに入隊し、流されつつ日々を過ごしていたら、いつの間にかB級中位で順位は安定していた。

私生活では順調に高校を卒業し大学に入り、二年に進級し。
趣味で書いていた小説も、徐々にだが部数を伸ばしてそれなりの評価をもらえるようになった。一番最初に出たものは、今度映画化してくれるらしい。

そんな中で、一つだけ問題が起きたのだ。

俺は基本的に、自分が小説家をしているということを人に言わない。
と言うのも、友人のよしみで買ってみた、という展開を避けたいからだ。だから友人のなかで俺が小説家というのを知っているのはいなかったのだが、最近、そんな人間ができた。
そのうちの一人、二宮匡貴。A級の二宮隊を率いるシューター。
個人ランクでも相当な腕を持つそいつは、俺の、というより、作家「森嶋なまえ」のファンだった。

大学でたまたま執筆していたら、後ろからのぞき込んだ二宮が、
数行読んですぐさま俺が自分の持っている本の著者だと察したらしい。勝手に見るなよとその時は文句を言ったが、なんだかんだと付き合いは続き、二宮は俺の本を必ず初版本で買ってくれている。

それがどうしたというと、ここでようやく、冒頭のあのセリフに繋がるわけである。

「みょうじさんって、二宮さんと仲いいんですねえ」
「……そうかな」

壁と背の高い男に挟まれて、逃げることができない。

本部を歩いていたら、突然後ろから呼び止められたのだ。
ちょっと時間良いですかと口で言いつつ、俺を人どおりの少ない道へと連れてきた。髪の毛を固めたこの男の名前は犬飼といい、二宮隊の隊員。つまり、二宮の部下だ。

初対面でいきなり壁ドンされる筋合いはないのだが、犬飼はニコニコと笑顔を浮かべるばかりだ。

「それがどうかしたか?」
「いやさー、最近頻繁に、二宮さんがみょうじさんのこと話題にするんですよ。やれ面倒見がいいだの、代返助かるだの」
「ふうん」

面倒見がいいというよりは、太刀川が人に頼るのが得意(戦闘以外で)なだけだと思う。別段俺は、人がどうなろうと構わないタイプだ。

ニコニコと、いっそ胡散臭いほどの笑顔だった犬飼が、急にその表情を変えた。

驚いた俺の胸ぐらをつかんで、呟く。
「ムカつく」
振りかぶられた手が、やたらゆっくりに見えた。


「ん? あれ、林、風邪か? マスクなんかして」
「まあな」。
「風邪はばかが引くんだろ。よかったなバカじゃなくて」
「太刀川に言われたくないと思うけど……大丈夫か? 任務あるなら代わるぞ?」
「換装体だし平気だろ。……堤、明日の3限、代返してくれないか?」
「ああ、分かった。無理するなよ」
「堤、俺のレポート手伝ってくれないか」
「自分でやれよ」


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