□告白スポットで
もうお前にはほかに好きな人がいるんだろ、さっきそう言ってたじゃないか。
だったら俺のことはもう放っておいてくれ。
そんな思いを込めながら真黒な目を睨みつけると、米屋はすいっと視線を外して、あらぬ方向を見た。
「……あー……」
「つか、いい加減どけよ。重いんだけど」
「あ、わり」
口ではそう言うものの、動く気配はない。ようやく膝が動いたと思えば、俺の体の上に米屋がのしかかってきた。
運動音痴の俺ががたいのいい米屋を支えられるわけもなく、結局身動きが取れないことには変わりない。
こいつ何やってるんだと思いつつも、久しぶりの体温に心臓がどくどくと鳴った。
すると、俺の腕を捕まえていた米屋の手が、背中に回った。ぐえ、と口からそんな声が出るほどきつく抱きしめられる。
「ちょ、苦し……しぬしぬ」
「ごめん」
「何が!?」
「なんか、すげー不安にさせてたっぽいのと、……俺、お前にほかに好きなヤツできたんじゃねーかって疑ってたから」
「は!?」
衝撃発言に瞠目する。
俺が好きなヤツは米屋と、あとは過去の思い出である幼稚園のミヨちゃんなのだが。そういやあの時は女の子好きだったな。
俺が混乱しているのを知ってか知らずか、米屋は話し出す。
「だってさ、みょうじ全然辛そうじゃねえんだもん。別れようって言うまでも、言ってからも」
「それこっちのセリフなんだけど」
と、思うじゃん?といつものセリフを言う米屋。普通に思うわ。
「だからなんか、俺に飽きたんかなーって。とか思ってたら、俺と付き合ってた時よりイキイキしてる気がして。そんで、あーそういうことかって。……ゴメン」
「いや、まあそれはいいけど……。ていうかホントにそろそろ離れろよ」
「なんで? イヤ?」
「イヤとかじゃなくて。米屋好きな人いるんだろ」
だったら元恋人なんかに抱き付いてんじゃない。
そういうと米屋はきょとんとした後に、ケラケラ笑い出した。
そしていっそう俺に抱き付く力を強める。コイツ一体どこにそんな力あるの。ボーダーだからか。理不尽。
「へーきへーき。あれみょうじのことだもん」
「……冗談でもやめろよ、それ」
「と、思うじゃん? さすがにこんな冗談言わねーよ」
体を放した米屋が、俺の顔を見てぶはっと吹き出した。きっと、心底いぶかしげな顔をしているのだろう。
そりゃそうだ、今まで好きだなんて一度として言ったことがないくせに、信じられるわけがない。
それを表情から読み取ったのか、米屋は少し困った顔をして(レアだ)、俺の顎を持ち上げて自分の方を向かせた。
「んじゃコレで信じてくれる?」
「え?」
疑問を言う前に、口を米屋のそれでふさがれた。
薄くて少しかさついた唇は、付き合っている間に一度もあわさったことがなかったものだった。
少しして、米屋が顔を離す。いつもと同じような笑顔だけど、耳だけがゆでられたように赤い。そっちを凝視していると、やがて顔もじわじわと赤くなった。
「……あんま見んなよ」
「……いや、なんか見ちゃうわ」
「あーもー、見世物じゃないんですう。んで、信じてくれんの?」
「……い、いやだ」
びしりと米屋が固まった。
まあ確かにここは、信じる流れなんだろうけど、キスよりも俺は欲しいものがあった。
「好きだって言ってくれなきゃ、ヤダ」
お題:確かに恋だった
prev nexttop