お風呂あがりの


「……あ」

お風呂からあがってきたら、なまえ先輩はソファに寝そべって、すやすやと寝息を立てていた。

「せんぱーい? 佐鳥が来ましたよー?」
「……」
「えー……」

つんつんと頬をつついてみても、身じろぎすらしない。
深く寝入っているようだ。

せっかく明日は広報の仕事がないのに。新しいゲームも漫画も持ってきたのに。

ちょっとむっとなって、執拗に顔をつつく。特に鼻を重点的につついてみたが、ちょっと顔をしかめただけで動かなかった。諦めてつつくのをやめる。

おれも広報の仕事で忙しいけど、先輩も別のことで忙しいんだろう。
特に最近は、受験に備えて勉強しているようだし。

「せっかく一緒に過ごせると思ったのに……なまえ先輩のバカ」

ぼそっと呟いて、寝転がっている先輩のお腹に乗っかる。呻くような声を出して、それでもやっぱり目は開かない。あーもう、これダメなパターンだ、絶対朝まで起きない。

できたら起きてほしいものの、無理に起こすのも気が引ける。
頭ではそう思っていても、乗っかったまま足をばたばたさせてみたり、先輩の鼻をつまんでみたり、体はとにかくなまえ先輩を起こそうとする。

でも起きない。

「熟睡しすぎでしょ……」

佐鳥は心が折れそうです。というかもう折れた。

先輩の上に寝転がって、胸に頭をくっつける。
もうこのまま寝ちゃおうかな。
規則的な鼓動を聞きながら、目を閉じる。風邪ひくかも、そしたら仕事に支障が出ちゃうなあ。でも、そうなったら先輩が看病してくれたりしないかな。

そこまで考えて、やっぱりこのまま寝るのはやめたほうがいいと考え直した。
前に熱を出して、なまえ先輩がお見舞いに来てくれた時、彼はあろうことかへろへろのおれをさらに疲労させるようなことをしたのである。内容はご想像にお任せする。

先輩と看病とは結び付けちゃいけない、とその時固く誓ったのを今思い出した。

「……あ」

そういえば、いつもなまえ先輩が上と言うか、おれに突っ込む役だけど、別に明確に決めたわけじゃない。

たまには、おれがそっち側にまわってもいいんじゃないか。

今はなまえ先輩が熟睡してるし、チャンスかもしれない。

そうと決まれば、とおれは体を起こして、未だにすーすーと寝息をたてているなまえ先輩を上から見下ろした。

首に浮いた筋と鎖骨。いつも見上げているのに今日は違って、少し新鮮だ。
なまえ先輩は、いつもどうやっていたっけ。

思い出しながら、そっと首に顔を近づける。
ちゅ、と音を立てて唇を落としてみると、少しだけなまえ先輩の体が動いた気がした。構わず、今度は首に吸い付く。

いつも先輩がしているみたいに、痕をつけたところを舐めて顔を上げた。きれいについているけど、ここだと服で隠れないかもしれない。

……うん、まあ、いっか。多分許してくれるだろう。多分。……おそらく。

再び首筋にキスしながら、そろりと服の裾に手を伸ばす。引き締まったお腹に手を滑らせると、なまえ先輩の体がまた小さく揺れた。
割れた腹筋を指でなぞり、首に少しだけ歯を立てた。

「ん、」

小さくそんな声が聞こえて、ぞくぞくと背中になにかが走る。

起こしてしまうと思って避けていたけど、もう我慢できなくなって、唇にキスした。
舌を割り入れて、なまえ先輩のそれと絡めようと伸ばした、その途端。

脇腹をするっとなでられて、思わず肩が揺れる。そちらに一瞬気を取られた隙に、頭を抑え込まれて、なまえ先輩の舌が侵入してきた。

「んぐ、むっ」

すぐ近くに、目を山なりにしたなまえ先輩の顔がある。笑っている。

口の中を好き勝手に荒らされて、酸欠でクラクラし始めたころ、ようやく解放された。
ぐったりともたれかかるおれを、先輩は笑いながら撫でる。

「可愛いことしてたねー、佐鳥」
「……せんぱい、いつから起きてたんですか」
「佐鳥が俺に乗っかったあたりでもう起きてた。可愛かったから寝たふりしてたけど」
「……あくしゅみ」
「ごめんごめん」

なまえ先輩はおれのほっぺをちょっとつまんで笑った。

膨れながら、目を閉じて顔を突きだす。まず瞼に柔らかい感触がして、次に頬、それから口。
首筋を先輩の手が撫でていって、おれはそっと腕に手を添えた。

いっぱいキスされて、斜めになっていた機嫌が徐々に回復していくのを感じる。
最後にでこちゅーして、先輩はおれをぎゅっと抱きしめた。

ほくほくの気分だったけど、やっぱり一言言いたくて、先輩の胸に顔を埋めながらぼそぼそと呟いた。

「明日せっかく休みなんですよ。先輩本当に寝ちゃったのかって、すっごい勿体ないことしたって思ったんですから」
「ごめんって。じゃあ何する? さっき佐鳥が言ってたゲームでもする?」
「んー……」

頭を撫でてくれる手が気持ちいい。そうだ、ゲームもあったんだった。

そういえば映画も見たいのがあったし、そろそろテストの時期だから勉強もしなくちゃいけないし。やりたいこともやらなきゃいけないこともいっぱいあるけど。
だけど、やっぱり。

「ゲームはいいです」
「そう?」
「うん。えっちしよ、なまえ先輩」
「お」

なまえ先輩を見上げると、ちょっと驚いたような顔の先輩がいる。
だけどすぐ、いつもみたいに笑っておれの頬を撫でた。

「佐鳥が上じゃなくていいの?」
「……そんなこと言って、佐鳥がやろうとしたらちょっかいかけるでしょ」
「あれ、バレた?」
「バレバレですー」
「うーん、佐鳥が可愛いから仕方ないね」

また調子いいこと言って、と文句を言いかけた口を、先輩が自分のそれで塞いだので、続きは言えなかった。

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