□だいすきの構成要素
出水くんの髪をぐしゃぐしゃにして、続けて米屋くんの頭も軽く撫でまわした。
「お疲れ様っす。しかしまぁ、コイツ相変わらず怖がり抜けねーっすね」
「出水先輩なんでそんなみょうじさん怖いんですか?」
「うっせー佐鳥、お前この人のメテオラフルアタ食らったことねーだろ!」
「……」
そんなことしたっけ。
したような気がしないでもないが、最終的には僕のメテオラをアステロイドで撃ち落とせるようになったのだから、結果オーライじゃないだろうか。
言い合う出水くんと賢くんを微笑ましく眺めていたら、米屋くんがぽんと手を叩いた。
「そうだ、みょうじさん、暇ならバトりません? おれまだ一回もやりあったことねーし」
「残念ですが、みょうじさんはオレが先にランク戦するんですー。横入りしないでくださいよ、米屋先輩!」
「えー、じゃあ次は?」
「その次はとっきーです」
「じゃあおれ3番目、その後弾バカで」
「おいコラおれ入れんな!」
ふざけんなおれはやらない、いいじゃん行こうぜと、米屋くんに引きずられて出水くんが動き出す。4人で連れ立って歩き出すと、おれととっきーが最初ですからね!と口を尖らせながら、賢君は先ほどの嵐山の話の続きを話し出した。
それを聞きながら、このメンツはなんだか桃太郎のメンバーのようだと思う。
賢くんが雉、出水くんが犬、米屋くんがサル。桃太郎は僕じゃないなあ。誰だろう。
その配役に内心で爆笑しながら、今度こそブースへと向かった。
目的地にたどり着き、賢くんと別れて空いている場所を探す。ちょうどそのとき、ブースから出てくる人がいて、その人と目が合った。
「あ、みょうじさん! お疲れさまです!」
「……っ!」
「え、な、なんですか!?」
そばかすと澄んだ目が特徴、笹森くん。
さっきの桃太郎配役を思い出し、桃太郎にピッタリすぎて思わず吹き出してしまった。戸惑う笹森くんに謝り、こちらも端末でねぎらいの言葉を返す。
『お疲れさま』
「はい! あの、みょうじさん、もしかしてランク戦ですか?」
「……」
「じゃあ、おれともやってください!」
今日はよくランク戦を申し込まれる日だ。そして穢れのない眼がとてもまぶしい。あいにく先約がいるので、申し訳ないがその後でもいいか尋ねるため、端末に指を置いた。
しかし最後まで打つ前に、僕らの後ろから、とある人物の声が聞こえた。
人呼んで、真の悪、そんな彼の声が。
「みょうじさんみょうじさーんっ! お久しぶりですー!」
「へっ……あ! た、太一待て! 待てええっ!!」
「……?」
笹森くんが叫んだ瞬間、僕の胸を何かが貫く。
それは僕の前にいた笹森くんの肩を飛ばし、壁に少しだけめり込んで霧散した。トリオン漏出が甚大だというナビが頭に流れ、慌ててトリガーをオフにする。
振り向くと、イーグレットを持った太一くんが、見事にずっこけている。なるほど、イーグレットを持ったままこちらへ走ってきて転んで、暴発して僕を撃ったと。
まさか、そんな、漫画みたいな。
「……ッ……!!」
「ああほら、みょうじさんツボった! ていうか、トリガーだしっぱで走るなよ!」
「ごめーん……ついうっかり……みょうじさん、すみませぇん!」
その場でうずくまって爆笑していると、笹森くんが太一くんを叱る。
その様子にさえ笑えて、端末をいじることすらできない。なかなかブースに入らない僕を不審に思ったのか、賢くんもどこからか駆けつけてきた。
「みょうじさんどうし……太一!? 日佐人もどーしたの!?」
「あ、佐鳥! それが、太一がイーグレット暴発させちゃって……みょうじさんがツボって……」
「うわっ地獄絵図!」
ああもう、こういうことが起きてしまうから、ボーダーって面白い。
戦闘体が緊急脱出寸前でランク戦ができないので、ランク戦を予約していた彼らには申し訳ないけど、次の機会に、という話になった。
太一くんは他の隊員はもとより、鬼怒田さんにもこっぴどく叱られたが、比較的被害が少なかったからか、今回は特にお咎めがないらしい。
ランク戦という目的をなくした彼らは解散……に、なるかと思いきや、偶然賢くんがトランプを持っていたので、急きょババ抜き大会が開催された。
「みょうじ」
賢くんが6回目のビリになったところで、僕を呼ぶ声がした。
振り向くと、手招きをしている迅がいる。
「……」
「あ、迅さん来たんだ。みょうじさん行きます?」
米屋くんの言葉にうなずいて、荷物を肩にかけた。なおも賢くんを負かし続けるらしいみんなに手を振って、迅の元へと向かった。
「お待たせ、みょうじ。鬼怒田さんが怒ってたけど、何かあった?」
「……」
「え、何その顔。気になるなあ」
不思議そうな顔の恋人に、笑みを返す。
きみが誘ってくれたボーダーは、とても楽しいよ、迅。
まきやさんへ捧げます!
お誕生日おめでとうございます、これからも素敵な作品を楽しみにしています!
16歳組が多くなったのは私の趣味です……('ω')
prev nexttop