□告白スポットで
結局雨は全然やまず、俺はあきらめて教科書をできるだけ庇いながら家に走った。
さいわいなことに、プリントは全滅だったが、教科書はつるつるした表紙のおかげか無事で、俺は次の日、先生に事情を説明してプリントを再度もらった。
そして今日もまた、窓から外を見る。今日もサッカー。米屋はオーバーヘッドキックをしようとして失敗し、皆の爆笑を受けていた。若干笑い事じゃないような気もしたが、本人が笑っているし、いいのか。
次のテストに出すからきちんと復習しろ、という教師の声に、俺は慌てて黒板の方を見た。
「っくしゅん」
ぶるりと肌寒さに震える。
あれだけ濡れたせいか、本気で風邪をひいたかもしれない。これで喉が痛み始めたら本格的に風邪だ。
校舎の右横、さび付いたベンチや破けたマットなんかが放置される場所。そこに俺は来ていた。理由は簡単、ダメになったプリントを解きなおすためだ。
この時間は図書室がうるさいし、家じゃ母親に手伝いに駆り出される。
教室はまだまだ人が多いから、落ち着いて勉強したい時はよくここに来る。
かろうじて無事なベンチに座ってプリントを開いたら、ふと、話し声が聞こえてきた。
「……たし、ずっと見てた。初めて見た時から、ずっと好きだったの」
「……」
なんだかとんでもなくまずいタイミングに来てしまったようだ。
校舎裏からか。
悪いとは思いつつ、のぞき込む。男のほうは俺からは顔がうかがえないが、女の子、告白している方は、学年でも評判の美人。
性格もいいし頭もいいというマドンナ。相手がどんな返答をするのかと思って耳をそばだて、俺は後悔することになった。
「んー、気持ちは嬉しいわ。サンキュ」
米屋だ。
長いこと話してないとはいえ、俺が聞き間違えるはずはない。
……そうか、頭を抜きにすれば、米屋は格好いいし気配りもうまいし、モテるだろう。俺がいないなら、心置きなく彼女だって作れるし。
「そ、それじゃあ……!」
「でもゴメン。俺さ、好きなヤツいるんだわ」
「えっ……」
一瞬でも期待を持ったその子と、俺の心情は一緒だっただろう。
「まー脈なしなんだけど、迷惑って言われない限りは一緒にいてーなって感じの? だから付き合えない、ゴメン」
申し訳なさそうに手を合わせ、米屋が謝る。女子生徒はふるふると肩を震わせると、泣きながら走り去っていった。俺の方に来なくてよかったと心から安堵する。
それにしても、米屋が好きな人って誰だろう。口ぶりからすると常に一緒にいる人のようだけど。……もしかして三輪? ありうる。
まあ、俺にはもう関係ないやと、覗いていた首をもどして、再びプリントに目を落とす。
と、また鼻がむずむずして、
「っくしゅ」
「ん? ……誰かいんのか?」
……バレた。
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