だいすきの構成要素


迅が珍しく本部に向かったので、僕も任務の帰りに本部へ行くことにした。

メッセージで場所を聞いてしまえば良かったが、たまには探してみるのも面白いだろうと、特にあてがあるわけでもないが、僕は本部の中を歩き出した。

ふらふらと歩き回っていると、時折どこからか視線を感じた。
玉狛支部の所属だから、本部に来ることはめったにない。見慣れない隊服が気になるのか、C級の子たちは特に見てくるようだ。

視線の方向へ顔を向け、とりあえず笑い返していると、誰かとぶつかった。

慌てて前を向くと、ぶすくれた顔の少年が僕を見上げていた。

「……!」
「いったいなあ……。ちゃんと前見て歩いてくださいよ、ぼくがケガしたらどうするんですか」
「……」

ぶうぶう文句を言う少年、菊地原くんの頭をわしわしとかき回す。

文句はよく言われるが、今もぶつかってきたのは向こうからだし、なんだかんだと理由をつけては構ってほしがる可愛い後輩だ。
髪がぐしゃぐしゃになってしまったのでささっと直し、胸のポケットから端末を取り出す。

しかし、書き始める前に菊地原くんに止められた。

「書かなくていいですよ。どうせ迅さん探してるんでしょ? 久しぶりに見たからポイントもらおうと思ったのに……」
「……」
「さっき太刀川さんに追われてて、足音が作戦室のほうに行ったから、その辺じゃないですか」

『ありがとう』

画面にその5文字を書きつけて、再び菊地原くんの頭を撫でる。
今度ランク戦してくださいよと不満げに言われて、手を振って別れた。

さて、作戦室か。とりあえず、太刀川隊のほうに行ってみようか。
再び僕は歩き出した。

A級の作戦室が並んでいる区画に足を踏み入れ、あたりを見回す。この辺はさすがにC級もそれほどいない。
うつろな表情でパソコンに向かっているヤバい人がいるとか、入った人間が必ずお腹を壊して病院送りになる部屋があるとか、フクゥウウサホォォオと嘆く幽霊がいるとか、そんな噂が絶えないからだ。
正隊員になれば真相を知ることだろう。

迅はどこかと歩きながら探していると、前方に誰かが見えた。

「!」

「あ、みょうじさんだ」
「え! あ、本当だ、みょうじさん!」
「……」

ぶんぶんと元気よく手を振りながらこちらへ小走りに近づいてくるのは、嵐山隊のとっきーと賢くん。
近づいてきた二人をさっきの菊地原くんと同じようにわしわしと撫でる。

「みょうじさん珍しいですね、本部にいるの。迅さんですか?」
「……」
「やっぱりそうかー。でも、さっき迅さん、城戸司令のところに行くって言ってましたよ」
「……」

城戸さんのところとは、また時間がかかりそうなところに。近々何か大きなことでもあるのだろうか。

何にせよ、探すよりもこれは待ったほうがよさそうだ。大事な話だろうし、僕が邪魔するわけにもいかない。

ふと思いついて、端末に文字を打ち込む。

『教えてくれてありがとう。もしこの後暇なら、ランク戦しない?』

それを二人に見せると、ぱっと顔が輝く。
二人とも広報の仕事やC級隊員の指導が多くて、なかなかランク戦をする機会がないと嵐山から聞いていた。それを思い出しての提案だったが、喜ばれたようだ。

「やる! やります! 佐鳥のツインスナイプお見せしますよ!」
「おれはまだ書類あるので、後から行きます。賢と先に行っててください」

『お疲れさま』

そんな言葉を交わして、とっきーと一旦別れ、賢くんとともにランク戦ブースへと向かうことにした。最近はこんなことがあった、あんなことがあったと楽しげに話す彼の話を聞きながら、さっきまで歩いていた廊下を引き返す。

賢くんは本当はわいわいしゃべるのが好きなのだろうが、僕が相手だと気を遣っているのか、自分からどんどん話題を提供して盛り上げてくれる。頭が下がる後輩である。

それでも結局、話題が嵐山にいくのは、隊長大好きな彼らしいというか。

「……それで、嵐山さんがそれ信じちゃって、もう嵐山隊みんな大慌てですよ。で、急きょとっきーが……ん?」

例にもれず、天然な嵐山の話を笑い転げながら聞いていたら、ふと賢くんが前を見て立ち止まった。
つられて僕も立ち止まり、賢くんが視線を向けるほうを見る。

が、それよりも早く、聞きなれた声があたりに響いた。

「みょうじさん、お疲れ様です!!」

出水くんが、90度で腰を折り、僕に頭を下げていた。その隣には米屋くんがいて、出水くんのほうを苦笑しながら見ている。出水先輩こわ、と賢くんが呟くのを聞きながら、彼のほうに近づいた。

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