愛って何かわからない


「へー、久しぶりに使ったのか、あいつ」

みょうじさんが弧月を使っていたということを太刀川さんに話してみたら、たいして驚いた様子もなくそんな言葉が返って来た。

「昔アタッカーだったって、マジすか?」
「そ。被弾率高いし緊急脱出しまくるしで、毎回任務終わったらいなかったけどな」
「……」

確かに、ザコ敵に腕をとられるくらいじゃ、お世辞にも優秀とは言えない。
任務がめちゃくちゃ早く終わったのは事実だけど、それだけじゃあな。
コロッケが入っていた包み紙をくしゃくしゃと丸めながら、太刀川さんは続けた。

「んでもって最初はまあ言うこと聞かないしなー。指示従わねーわすぐ死ぬわ、おまけに協調性皆無だわで」
「なんて?」
「だから、みょうじが三輪の劣化版だったときの話」
「なんて!?」

まだ残っていたコロッケを、思わず握りつぶしてしまった。

みょうじさんというと、穏やかでニコニコしてて、笑いのツボが浅くて、ドッキリが好きで。三輪は近界民殺しに全力投球していて、若干天然ではあるけど隙が少なくて、滅多に笑わなくて。
とにかく共通点なんかほぼないような二人だ。
それも劣化版の三輪ってどういうことだよ。

「う……ウソだぁ……」
「マジマジ。近界民殺すのに命かけてたな。C級がトリガー使うなっていうの、あれみょうじの前例があったから規定されたんだぜ。ある程度の実力つくまでは戦うなって」
「嘘だ! だってみょうじさん玉狛所属じゃないですか!」

玉狛支部は比較的(敵意がない)近界民に対して寛容だ。
三輪なんかはそのせいで敵視しているというのに、どうして三輪っぽかったというみょうじさんが今、わざわざ太刀川隊を抜けてまで所属しているのか。

バカなヤツのあぶり出しもかねてる、と鬼怒田さんが言っていたけど、その筆頭がまさか、おれの師匠だったなんて。
太刀川さんはきょとんとした顔で、だってあそこには、とおれの疑問に答えた。

「迅がいるだろ」
「……え」
「迅がいるから向こう行ったんじゃねえの?」
「おれに聞かないでくださいよ……。え、じゃあ、好きな人と一緒にいたいから抜けたってことすか?」
「それはまた別の話だ。足引っ張りたくないってんで隊抜けて、フリーになったとこを迅に誘われたから玉狛行ったっつーこと。そのー、劣化版三輪?を今のみょうじまで変えたのが迅だからな」

新しい情報がどんどん出てきて、頭がこんがらがってきた。

おれの中にあるみょうじさん像というのが、おれに声をかけてくれたときのものだからだ。画用紙で文字を出された時には驚いたけど、それを差し出してきたあの人が笑顔だったから、なんとなく行ってみようかという気にもなった。

まぁ調子こいて、おれと戦って勝ったら入ってあげますよなんてに言って、ぼっこぼこにされたんだけども。

昔を思い出して遠い目をしていると、太刀川さんがあれどうやったんだろーな、と天井を仰ぐ。

「あれって?」
「だから、みょうじをあそこまで穏やかにってことだよ。俺が何度言っても変わんなかったんだぜ、アレ」
「……」

確かに、それも気になる。

それもだけど、どうして弧月を使ったのかもわからない。

「んあー……わかんね」
「まぁあいつらのことで俺らが悩むっていうのも、なんか癪に障るなあ」
「癪に障るっつーか……。つか、みょうじさんまたアタッカーに戻るんすかね? シューターやめて。最近もっぱら弧月らしいですけど」
「さあ。アタッカーなるんなら試合申し込むか」
「負け確じゃないっすか。……まあおれは別にどっちでもいいけど、負傷多くなるんじゃ本末転倒な気が」

片腕がない彼の姿を思い出す。
アタッカーの腕がないのは致命傷だ。スコーピオンを使うならまだしも、弧月を使うなら、バランスがうまくとれないだろう。
苦手なことにチャレンジするというなら止めはしないが、それとはまた違う気がする。

握りつぶしたコロッケを一口で呑み込んで、おれも包み紙を丸めて捨てた。

「まー、そのうち誰かが言いそうだよな。負傷云々は」

二宮とか三輪とか、と太刀川さんが言って、確かになあと納得した。

とたん、はたと閃く。

「……太刀川さん。迅さんって、みょうじさんがアタッカーだったときどんな感じでした?」
「どんな? ……まぁそういう戦い方やめろーとは言ってたな。シューターすすめたのは向こうの支部長さんらしいけど」
「…………」
「なんだよ、出水」

憶測に過ぎない、というか、あのみょうじさんがそんなことするのか、なんていう疑念もあるけど。でも柚宇さん曰く今は弱っているらしいから。
いや、でも。

悶々と考えていると、太刀川さんにごち、と頭を叩かれた。

「あ、すんません」
「ん。で、何か思いついたか?」
「やー……これ間違ってたら双方に申し訳ないんで、黙っときます……」
「は!? 気になるだろ、教えろよ!」
「やですって! 迅さんはともかくみょうじさんにはぶっ殺される!」

迫る太刀川さんから逃げつつ、頭に浮かんだ考えを振り払う。

やっぱり、考えすぎだよな。

あの人が、迅さんにもう一度、「その戦い方をやめろ」と言ってもらいたがっているなんて。

お題:確かに恋だった

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