告白スポットで


「別れよう」

そう切り出して、思い続けた人と別の道を歩み始めたのはいつのことだったか。

ぼんやり、3階の窓から校庭を眺める。隣のクラスはサッカーらしく、校庭を走り回る生徒たちがよく見える。
女子は体育館にでも行っているのか、盛り上がっているのはほとんど男子だ。

その中、ハットトリックを決めた男子生徒は、周りを男子に取り囲まれて笑っている。
米屋陽介。俺の元恋人である。


米屋とは中学生の頃からの友人だった。勉強が壊滅的な米屋に俺が教えてやって、逆に逆上がりもできない俺を米屋がフォローしてくれて。

たぶん、向こうも友人と思っていてくれていたと思う。
思う、というのは、米屋がまったくと言っていいほど感情や表情を読ませないから。いつもにこにこしてどんな相手にも対応するけど、そんな対応をしていても後でアイツむかつく、なんていうこともあった。

俺が好きだと言った時も顔色一つ変えず、首をかしげてじゃー付き合う?の一言だけ。
それに頷いてしまった俺も俺だけど、そういう理由で、俺と米屋は付き合っていた。
とはいっても所詮は中学生だから、一緒に帰ったり手をつないだりしただけで、そのほかはほとんど友達と変わらなかった。もちろん、セックスどころかキスもしていない。
それでも俺は嬉しかった。

それが変わったのは、米屋が属する三輪隊がA級にあがった頃だった。

ボーダーは激務なことに加え、A級ともなればそれなりに難しい防衛任務にも駆り出される。それに、三輪を支えたい米屋は訓練の時間も増やし(その分成績も下がったのだが)、俺と一緒にいる時間なんてなくなった。

最初はメールのやり取りくらいはしていたけど、それもなくなって、学校で話すのがせいぜいという希薄さに、耐えきれなくなったのは俺のほう。

「そろそろ別れよう、米屋」

久しぶりに一緒に帰った日、少し寄り道して、なるべくゆっくり歩いていたけど、やっぱり家が近くなると辛くなって、すぐそばの公園に二人で入った。

そしてそう切り出したら、米屋は俺が告白したときと同じように首をかしげ、笑顔のまま聞いた。

「え、なんで?」
「だって、もう三輪隊A級じゃんか。あ、ごめんね言い忘れてた。おめでとう」
「おー、サンキュー。まああの時結構忙しかったからなー」

けらけら笑う米屋。やっぱり何も読み取れない。怒ってはいないだろうけど。

「それで、話戻すけど」
「おう」
「A級になってすごく忙しそうだしさ。まあ、そんな変わらないかもしれないけど、人間関係すっきりさせたほうがいいんじゃないかと思って」

男同士じゃ未来もない。そんな当たり前のことに気が付くのに時間がかかりすぎた。
ようやく気付けたのは、米屋を好きだという女子のことを聞いたから。

居てもいなくても変わらなくて、しかも男で、してやれることなんか何もない俺がいつまでもぶら下がっているわけにはいかないから。

「中学生のお遊びだったと思ってさ、別れよう?」

その途端、米屋の顔から笑顔が消えた。ぎょっとした。
思わず固まって、何か失言があったのかと自分の言葉を思い出すけど、わからない。

慌てる俺をよそに、米屋は再び笑顔を取り戻して、

「そっかー。まあそれなら仕方ねーな。わかった、別れるか」

不自然さを感じなかったわけではないけど、その笑顔が怖くて俺はただ頷いた。

「あ、……うん」
「んじゃ、俺これから任務あるから行くわ。今までありがとなー!」
「うん、バイバイ」

そこから、一度も米屋と話していない。

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