□あかしがほしい
「すいません、大型犬の首輪ってありますか?」
「はい、ございますよ。わんちゃんの犬種は?」
「雑種なんですよ。大きさ的には……レトリバーとかよりちょっと大きいくらいで」
「そうですね……でしたら、こちらはいかがでしょう? お色は赤と青になりますが」
「あ、いいなあそれ。じゃあこれください」
「はい、かしこまりました!」
真っ赤な首輪を袋に入れてもらって、俺はほっと胸をなでおろした。
「先輩ひどい、デートの日忘れるなんて!」
先々週、俺は恋人(♂)とのデートの日をすっぽかした。
言い訳をしようにも、恋人もとい佐鳥の泣きようが尋常ではなかったため、俺はひたすら平謝りし、どうにか泣き止ませることに成功した。
しかし、泣き止んだとはいえ不機嫌マックス状態で、話しかけても返事さえしない。甘やかそうと呼んでもこない。
お手上げ状態で、じゃあなんでも言うこと聞いてやるからと言ったら、途端に佐鳥はこちらを向いた。
「な、なんでも? なんでもいいの?」
「え? あ、うん……。でもあと100個お願い聞いてとかなしな」
「小学生じゃあるまいし言わないよ! ……で、でも、そういうの以外だったらいいんだよね?」
「まあ」
テンションの上がりように少し体を引いたら、佐鳥は顔を赤らめながら、じゃあ、と切り出した。
「あの、ですね。く、……」
「く?」
「くび、わが、……首輪が、ほしい」
歯切れ悪く言ったと思えば、そんなこと。
一瞬頭が白くなったが、ファッション的な意味での首輪ではないかとすぐに思いなおす。
しかし、俺の知る限り佐鳥の持っている服の系統は、とてもじゃないが首輪が似合う種類のものじゃない。
じゃあ何か。犬とか猫とかがつける首輪か。
そう聞き返したら、佐鳥はこくこくと何度もうなずいた。
種類はなんでもいいから、とにかく首輪が欲しいのだと言う。どういうこっちゃ。
「だって先輩、なんでもって言った」
「いや、まあ、うーん……」
「ひ、引いてる?」
「引きはしないけど……首輪? リボンとかじゃダメなわけ?」
「やだ」
即答。
どうしても首輪がいいらしい。
なんでだよと疑問に思いつつも、今回は完全に俺に非があるため、断ることができなかった。結局そのお願いを呑んで、機嫌の直った佐鳥と出かけたのが先週の話。
苦しくないようにと大きめのサイズ、そして佐鳥が所属する嵐山隊のシンボルカラーである赤、しかも星が付いているというデザインを選び、今日こうして佐鳥の家へと持参したわけである。
インターホンを押す前に佐鳥が家から転がり出てきて、挨拶もそこそこに佐鳥の部屋へと引きずり込まれた。いつもよりずいぶん性急である。
ドアを少し乱暴に閉めて、俺を熱っぽい目で見つめる。
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