あかしがほしい


「すいません、大型犬の首輪ってありますか?」
「はい、ございますよ。わんちゃんの犬種は?」
「雑種なんですよ。大きさ的には……レトリバーとかよりちょっと大きいくらいで」
「そうですね……でしたら、こちらはいかがでしょう? お色は赤と青になりますが」
「あ、いいなあそれ。じゃあこれください」
「はい、かしこまりました!」

真っ赤な首輪を袋に入れてもらって、俺はほっと胸をなでおろした。


「先輩ひどい、デートの日忘れるなんて!」

先々週、俺は恋人(♂)とのデートの日をすっぽかした。

言い訳をしようにも、恋人もとい佐鳥の泣きようが尋常ではなかったため、俺はひたすら平謝りし、どうにか泣き止ませることに成功した。
しかし、泣き止んだとはいえ不機嫌マックス状態で、話しかけても返事さえしない。甘やかそうと呼んでもこない。
お手上げ状態で、じゃあなんでも言うこと聞いてやるからと言ったら、途端に佐鳥はこちらを向いた。

「な、なんでも? なんでもいいの?」
「え? あ、うん……。でもあと100個お願い聞いてとかなしな」
「小学生じゃあるまいし言わないよ! ……で、でも、そういうの以外だったらいいんだよね?」
「まあ」

テンションの上がりように少し体を引いたら、佐鳥は顔を赤らめながら、じゃあ、と切り出した。

「あの、ですね。く、……」
「く?」

「くび、わが、……首輪が、ほしい」

歯切れ悪く言ったと思えば、そんなこと。

一瞬頭が白くなったが、ファッション的な意味での首輪ではないかとすぐに思いなおす。
しかし、俺の知る限り佐鳥の持っている服の系統は、とてもじゃないが首輪が似合う種類のものじゃない。
じゃあ何か。犬とか猫とかがつける首輪か。

そう聞き返したら、佐鳥はこくこくと何度もうなずいた。
種類はなんでもいいから、とにかく首輪が欲しいのだと言う。どういうこっちゃ。

「だって先輩、なんでもって言った」
「いや、まあ、うーん……」
「ひ、引いてる?」
「引きはしないけど……首輪? リボンとかじゃダメなわけ?」
「やだ」

即答。
どうしても首輪がいいらしい。

なんでだよと疑問に思いつつも、今回は完全に俺に非があるため、断ることができなかった。結局そのお願いを呑んで、機嫌の直った佐鳥と出かけたのが先週の話。

苦しくないようにと大きめのサイズ、そして佐鳥が所属する嵐山隊のシンボルカラーである赤、しかも星が付いているというデザインを選び、今日こうして佐鳥の家へと持参したわけである。

インターホンを押す前に佐鳥が家から転がり出てきて、挨拶もそこそこに佐鳥の部屋へと引きずり込まれた。いつもよりずいぶん性急である。
ドアを少し乱暴に閉めて、俺を熱っぽい目で見つめる。

prev next
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -