写真部の暗室で


「みょうじくんって、写真好きなの?」
「別に。撮るならデジカメでもスマホでもいいと思う」
「え、んじゃなんで写真部に入ったの?」
「……一人になりたかったから」

攪拌を終えたタンクを机に置く。見えない位置にある椅子に座って、このまま数分放置する。
おしまい?と聞かれたので、まだ、と答えた。

ぼんやり、遮光カーテンを見る。暗くて音がなくて、少し蒸す暗室。匂いと蒸し暑さをのぞけば、ずっと暗室にいてもいいくらいだ。それならずっと一人でいられる。
腹の中ってこんな感じかなと、ふと思って、ボーダーの前では言ってはいけないだろうことを言ってしまった。

「……次に近界民来たら、食われちまおうかな」
「…………」

犬飼は黙ったままだ。

さすがに不謹慎だったかと、椅子から立ち上がって再びタンクの元へ。まだ3分も経っていないけど、空気に耐えられなかった。

「……お前もう戻れよ。現像の匂いつく、」

ぞ、と続けようとした口は、犬飼にふさがれた。

驚いて固まる俺をよそに、唇の間を割って犬飼の舌が入ってくる。ぬるぬるした感触が気持ち悪い。押し返そうとしても頑として目の前の体は動かず、それどころかどんどん壁際に追いやられてしまった。
好き勝手に動く舌に足が震え、立っていられない。
ようやく放された時には、ずるずると床に座り込んでしまった。

「、っな、に、すんの」
「ねえ、みょうじくん。部員がだめならさ、付き合おうよ」
「は!?」

俺、けっこうみょうじくんのこと好きだよと言う犬飼の真意がわからない。
何がどうなって付き合おうなんて話になったんだ。

「部活だけじゃなくてさ、俺とずっと一緒にいれば、いじめっ子も手出しづらいじゃん? 近界民に襲われても守ってあげるし、絶対食わせないし」
「……意味わかんないんだけど」
「一人が好きなら、俺が入ってくるのも絶対許さなかったはずでしょ? それが受け入れるってことは、やっぱみょうじくん、一人じゃ嫌だってことだよ」
「…………拒否権は」
「ない!」

いい笑顔で言われて、脱力する。無茶苦茶な理屈だ、と言っても、犬飼は笑って両思いだからいいじゃんとたわけたことを抜かす。
一瞬だけ、フィルムの中身を知っているのかと驚いたことは秘密にしておこうと思う。

お題:確かに恋だった



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